新書嫁レビュー
東大合格者数の順位表は、戦後日本の縮図だった
2026-08-07
名門高校は、ずっと名門のままだと思っていた
わたしはずっと、東大にたくさん合格者を出す高校というのは、昔から変わらず強い、揺るぎない名門校なのだと思っていました。優秀な学校はいつの時代も優秀で、ランキングの顔ぶれもそう大きくは入れ替わらない。そう漠然と信じていたのです。
ところがその思い込みのまま受験の話題に触れると、どこか足元がぐらつく感覚がありました。親世代が口にする名門校と、今の合格者ランキングに並ぶ学校が、妙に食い違う。なぜ「昔の名門」が今は影が薄いのか、説明できないもやもやを抱えていたのです。その霧を晴らしてくれたのが、この一冊でした。
小林哲夫著『改訂版 東大合格高校盛衰史』はこちらから読めます。
一つの制度変更が、日本一の高校を1人にまで落とした
本書が一九四九年からの合格者数ランキングを年度別にたどって示すのは、名門校の地位がいかに移ろいやすいかという事実です。象徴的なのが、かつて東大合格者数日本一を誇った都立日比谷高校の急落です。一九六四年には百九十三人もの合格者を出していたこの高校が、ある時期には一人にまで落ち込みました。
その引き金となったのが、一九六七年に東京都が導入した学校群制度でした。受験生が日比谷のような特定の高校を志望して受けられなくなり、合格しても群の中の複数校に振り分けられる仕組みです。志望校を選べないとあって、優秀な生徒は私立や国立へ流れていきました。たった一つの制度変更が、日本一の進学校から才能の流れを静かに、しかし決定的に断ち切ってしまったのです。本書には、こうして公立が退いた後に私立が台頭し、一九九〇年に私立出身者が初めて公立を上回った転換点についても、膨大な数字とともに描かれています。続きはぜひ本書で確かめてみてください。
受験のニュースが、歴史の続きとして読めるようになった
この本を読んでから、教育の話題の聞こえ方が変わりました。以前は、どこそこの高校が東大に何人受かったという報道を、単なる今年の成績表として眺めるだけでした。けれど今は、その数字を「戦後ずっと続いてきた盛衰の物語の最新ページ」として読めるようになったのです。
たとえば近年、日比谷高校が再び合格者数を伸ばし、約半世紀ぶりに公立トップへ返り咲いたという話を聞くと、それが学校群制度で底まで落ちてからの長い復活劇だとわかり、一つのニュースに奥行きが生まれます。子どもの学校選びを考えるときも、その年の偏差値という一点だけでなく、その学校が今どんな歴史の波の上り坂にいるのか、それとも下り坂にいるのか、という視点で見られるようになりました。誰かと教育を語るときも、印象論ではなく数十年単位の流れを踏まえて話せます。順位表の数字が、社会の変化を映す鏡に変わったのです。
ランキングを表面だけ見て、損をするところだった
この本に出会わなければ、わたしは合格者ランキングを毎年の数字として消費するだけで、その背後にある戦後日本の教育史を見落としたままだったはずです。著者の小林哲夫さんは、長年にわたり教育とりわけ高校・大学の現場を取材してきた教育ジャーナリストで、膨大な資料を丹念に整理する手腕に定評があります。だからこそ、無味乾燥に見える順位表から、制度と社会の力学を読み解いてみせたのだと思います。
名門校はいつの時代も名門だと思っている方は、その地位がどれほど移ろいやすいものか、まだ知らないのかもしれません。
小林哲夫著『改訂版 東大合格高校盛衰史』はこちらから読めます。
内容紹介
政財界をはじめ、各界のトップを輩出しつづける東京大学。そこに集まる俊英たちの大半は、全国の名門進学校出身だ。とはいえ、そんな名門校の地位も不動ではない。幾度も繰り返される凋落と躍進の背景には、どんな要因が隠されているのか?東大合格校の変遷を辿ることで、戦後日本の教育制度と社会構造が浮き彫りになるー。本書には、新制東京大学の入試が開始されて以降の合格者数ランキングをすべて掲載。年度ごとはもちろん、テーマ別にもさまざまな順位表を作成した。入試改革の影響は?公立と私立の力関係は?都道府県格差の実態は?膨大な資料と精緻な分析で、東大受験の来し方行く末を見通す!
出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。
書誌情報
- 書名
- 改訂版 東大合格高校盛衰史~1949年~最新ランキング徹底解剖~ (光文社新書)
- 著者
- 小林 哲夫
- レーベル
- 光文社新書
- 出版社
- 光文社
- 発売日
- 2023年2月15日
- ISBN
- 9784334046514