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私は女性にしか期待しない (岩波新書 新赤版 109)

松田 道雄

岩波新書 新赤版 / 岩波書店

1990年2月1日発売

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新書嫁レビュー

「社会を変えるのは権力者だ」という前提を、80歳の小児科医が静かに覆した

2026-05-06

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「社会を変えるのは、権力や地位を持った人たちだ」とずっと思っていた

社会を変えようとするなら、政治家になるか、経営者になるか、あるいは大きな組織の中で地位を上げていくしかない——そう思っていました。声を上げたいなら影響力を手に入れるのが先で、力のない立場からは何も変えられない。そういう感覚が、どこかにずっとありました。

でも、その「力を持った人たちが動かす社会」が、なぜいつも同じ方向にしか変わらないのかという疑問もありました。権力を持った人が意思決定しているはずなのに、普通の人たちの生活がなかなかよくならない。その矛盾の正体が、どこにあるのかわかりませんでした。

松田道雄著『私は女性にしか期待しない』を読んで、その問いへの答えの一つを見つけました。

松田道雄著『私は女性にしか期待しない』はこちらから読めます。

「しきたり」に縛られていない人こそが、変化の起点になれる

著者が本書で示す視点は、鮮やかです。「知らず知らずのうちにしきたりに縛られ、自らの時間さえも投げうって会社人間となる男たち」——この描写は1990年に書かれたものですが、現代にもそのまま当てはまります。組織の論理に染まった人間は、組織を変えることができない。変えようとすれば自分の地位が危うくなる。だから権力を握っても、しきたりの中で動き続けるだけになる。

そして著者が期待を寄せるのは、そのしきたりの外側で模索し続けている人たちです。充実した生を求めて、既存の枠組みを問い直している——その存在こそが、社会に風通しを生み出す力を持っていると著者は言います。連帯することで、沈黙を破ることで、個々の声は社会を動かす力になりうる。

本書にはさらに、「デモクラシーへの道」という章で、個人が社会的発言権を持つことの意味と方法が論じられています。ぜひ本書でその全貌を確かめてみてください。

「自分には変える力がない」という諦めが、少し緩んだ

読む前と後で、社会への関わり方の感覚が変わりました。以前は「普通の立場では何も変えられない」という諦めが先にありました。でも今は、変化の起点は権力の中心ではなく、しきたりに縛られていない場所から始まることがあると感じるようになりました。

具体的には、日常の中で「これは当たり前なのか」と問い返す瞬間の質が変わりました。電車で席を譲らない人を見ても「それが普通」と流すのではなく、「なぜそれが普通になっているのか」を考えるようになりました。小さな問い返しの積み重ねが、沈黙を破る第一歩だという感覚です。著者が80歳を越えてなお書き続け、語り続けた姿勢は、その問いの力を体現していました。小さな声が集まって初めて、大きな静寂が破られる——そのシンプルな原理を、著者は自らの行動で示し続けた人でした。

小児科医として女性と子どもの側に立ち続けた80年の眼差し

松田道雄(1908-1998)は小児科医として活躍しながら、育児書の著者としても多くの親に読まれ、女性と子どもの立場から発言を続けた知識人です。80年の生涯を通じて、社会の弱い立場にある人々の視点から社会を問い続けた。本書はその晩年に書かれた、静かで鋭い一冊です。権威ある立場からではなく、長年にわたって弱い立場の人々と向き合い続けた者の言葉だからこそ、その問いかけには重さがあります。

この本を読まなければ、「力がなければ社会を変えられない」という前提のまま、ただ傍観し続けていたでしょう。

松田道雄著『私は女性にしか期待しない』はこちらから読めます。

内容紹介

知らずしらずのうちに「しきたり」にしばられ、自らの時間さえも投げうって会社人間となる男たち。他方、充実した生を求めて模索している女たちー。八十年の生涯をかけて、女性と子どもの立場にたちながら幅広い発言を重ねてきた著者は、いま、人間らしい社会の実現を展望し、’90年代の幕開けに抱く絶望と希望を語りかける。

出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。

書誌情報

書名
私は女性にしか期待しない (岩波新書 新赤版 109)
著者
松田 道雄
レーベル
岩波新書 新赤版
出版社
岩波書店
発売日
1990年2月1日
ISBN
4004301092