新書嫁レビュー
一億総中流——その言葉が、見えない断層を覆い隠していた
2026-07-22
日本は、まだ「みんな中流」の社会だと思っていた
日本は格差が小さく、多くの人がそこそこの暮らしをする「一億総中流」の社会だ——子どものころに聞いたその言葉を、どこかでまだ信じていました。豊かな人も苦しい人もいるけれど、社会の真ん中には分厚い中流層が広がっている、と。けれど実際の生活実感はその言葉とずれていて、なぜ自分のまわりにこれほど苦しさが漂っているのか、うまく説明がつかない居心地の悪さがありました。みんな同じくらいの暮らしのはずなのに、現実には明らかな開きがある。その矛盾を、努力や運の問題として個人の話に閉じ込めてきたのです。橋本健二著『新・日本の階級社会』を読んで、その言葉が覆い隠していたものが見えました。
橋本健二著『新・日本の階級社会』はこちらから読めます。
「中流」は分解し、第五の階級が生まれていた
本書が膨大なデータから描き出すのは、中流社会という像がすでに分解しているという現実です。著者は現代日本を、資本家階級・新中間階級・旧中間階級・労働者階級という四つの階級に分けたうえで、そこに収まりきらない第五の層が新たに出現したと指摘します。それが「アンダークラス」です。非正規労働を中心とするこの層は900万人を超え、就業人口のおよそ15%を占めるほどの規模に膨らんでいる。本書のデータでは、男性の3割が貧困ゆえに家庭を持てず、母子世帯を中心とするひとり親世帯の貧困率は50.8%に達するとされています。一億総中流という言葉の足元で、はっきりとした断層が走っていたのです。さらに本書は、親が労働者階級なら子も労働者階級になりやすいといった階級の固定化や、配偶者の有無で生活が大きく分かれる女性たちの状況にも踏み込みます。生まれ落ちた場所が、その後の人生の幅を静かに決めてしまう——そんな現実が数字で突きつけられます。各階級の意識や政治的傾向の違いまで、データに基づいて細かくたどられます。その先は、ぜひ本書で確かめてみてください。
社会を見る目盛りが、一段細かくなった
この枠組みを知ってから、世の中の見え方が変わりました。以前は、苦しい人がいるのは景気が悪いから、くらいの大ざっぱな理解で止まっていました。けれど今は、ニュースで非正規雇用や子どもの貧困の話題に触れたとき、それがアンダークラスという構造の問題として像を結ぶようになりました。漠然と感じていた社会のしんどさに、輪郭と目盛りが与えられた感覚です。電車で隣に座った人や、すれ違う同世代の人を見ても、この社会のどこに立っているのだろうと考えるようになりました。自分や身近な人がどの層にいるのかを意識するようになり、ぼんやりした不安が、向き合える具体的な問いへと変わっていきました。
知らないままなら、ただ景気のせいにしていた
この本を読まなければ、私は社会の苦しさをこれからも「なんとなく不景気だから」とか「努力が足りないから」で片づけ、構造に目を向けないままだったはずです。著者の橋本健二さんは早稲田大学人間科学学術院の教授で、長年にわたり階級・格差を研究してきた社会学者です。本書の結論には政治的だという批判もあり、データの読み方をめぐって読者の評価は割れますが、それでも一億総中流という思い込みに具体的な数字を突きつけた一冊であることは確かです。あなたが当たり前と思っている「中流」の像にも、見えない断層が走っているかもしれません。
橋本健二著『新・日本の階級社会』はこちらから読めます。
内容紹介
新自由主義の台頭で日本社会に格差が定着した。非正規労働者層が誕生し、人口の三割が経済的理由から家庭を持つことができないという、膨大な貧困層を形成した。人々は格差の存在をはっきりと感じ、豊かな人々は豊かさを、貧しい人々は貧しさをそれぞれに自覚しながら日々を送る。豊かさの程度によって日本はすでに分断され、「新しい階級社会」が成立しているのだ。最新の調査データが物語る、現代日本の恐るべき現実!!
かつて日本には、「一億総中流」といわれた時代がありました。高度成長の恩恵で、日本は国民のほとんどが豊かな暮らしを送る格差の小さい社会だとみなされていました。しかし、それも今や昔。最新の社会調査によれば1980年前後、新自由主義の台頭とともに始まった格差拡大は、いまやどのような「神話」によっても糊塗できない厳然たる事実となり、ついにはその「負の遺産」は世代を超えて固定化し、日本社会は「階級社会」へ変貌を遂げたのです。
900万人を超える、非正規労働者から成る階級以下の階層(アンダークラス)が誕生。男性は人口の3割が貧困から家庭を持つことができず、またひとり親世帯(約9割が母子世帯)に限った貧困率は50・8%にも達しています。日本にはすでに、膨大な貧困層が形成されているのです。
人々はこうした格差の存在をはっきりと感じ、豊かな人々は豊かさを、貧しい人々は貧しさをそれぞれに自覚しながら日々を送っています。現在は「そこそこ上」の生活を享受できている中間層も、現在の地位を維持するのさえも難しく、その子供は「階層転落」の脅威に常にさらされている。この40年間の政府の無策により、現代日本は、金持ち以外には非常に生きるのが困難な、恐るべき社会になったのです。
官庁等の統計の他、さまざまな社会調査データ、なかでもSSM(「社会階層と社会移動全国調査」)調査データと、2016年首都圏調査データを中心にしたデータを基に、衝撃の現実が暴き出されてゆきます。
「格差社会」から「新しい階級社会」へ───序に変えて
第一章 分解した中流
第二章 現代日本の階級構造
第三章 アンダークラスと新しい階級社会構造
第四章 階級は固定化しているか
第五章 女たちの階級社会
第六章 格差をめぐる対立の構造
第七章 より平等な社会を
参考文献
あとがき
出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。
書誌情報
- 書名
- 新・日本の階級社会 (講談社現代新書)
- 著者
- 橋本健二
- レーベル
- 講談社現代新書
- 出版社
- 講談社
- 発売日
- 2018年1月18日
- ISBN
- 9784062884617