← ブックフィード 新書嫁 新書を、1冊ずつ読み解く PR

日銀の限界 円安、物価、賃金はどうなる? (幻冬舎新書 752)

野口悠紀雄

幻冬舎新書 / 幻冬舎

2025年1月22日発売

楽天ブックスAmazon

新書嫁レビュー

賃上げが続くほど、生活が苦しくなる理由を知らなかった

2026-04-30

書評を読む画面で開く →

ずっと、日本経済は回復しつつあると思っていた

2024年の春闘で歴史的な賃上げが相次いだとき、正直なところ安堵した。ようやく日本も動き始めた、と感じた。株価は最高値を更新し、外国人観光客がにぎわい、大企業が軒並み「過去最高益」を報告していた。円安は輸出企業に恩恵をもたらし、その利益が雇用や賃金に回ってくる——そんな筋道を漠然と信じていた。

でも、どこかしっくりこなかった。給料が上がっているはずなのに、スーパーで手に取るものを以前より慎重に選ぶようになった気がする。外食の価格が静かに上がっていて、旅行の宿を取ろうとすると予算が合わない。数字の上では豊かになっているはずなのに、日常の実感が追いついてこない。その違和感は気のせいではなかったのだと、この本を読んで確信しました。

野口悠紀雄著『日銀の限界 円安、物価、賃金はどうなる?』はこちらから読めます。

「賃上げ」は、消費者からの所得移転に過ぎなかった

本書が明かす核心はこうです。企業が賃上げを行うとき、そのコストは販売価格に上乗せされます。賃金が上がれば物価も上がる。物価が上がれば、次の春闘でまた賃上げを求める声が高まる。このサイクルが「物価と賃金の好循環」と呼ばれてきましたが、著者はこれをスタグフレーションへの入口だと断言します。名目賃金がいくら上がっても、物価がそれ以上に上昇し続ける限り、実質賃金——本当の購買力——は増えることがないのです。

円安の構造もまた同じです。2024年5月時点で1ドル155円という水準は、著者の試算では日本が本来必要とする109円から42%も乖離していました。輸出企業の業績が伸びているのは事実ですが、その利益の源泉は、原材料や輸入品の価格上昇を国内消費者に転嫁しているからに他なりません。企業が儲かる分だけ、消費者の財布から購買力が流れ出しているのです。著者はこう言い切ります。「円安が消費者にとって望ましい面は一つもない」と。

2000年当時、日本の一人当たりGDPはアメリカを上回っていました。それが2024年にはアメリカの4割以下に転落しました。「企業が儲かれば国民も豊かになる」という前提が、この20年でいつの間にか崩れていたことを、本書はデータで静かに突きつけます。さらに本書では、新NISAが意図に反して海外への資金流出を過去最高ペースで増大させているメカニズム、そして外国人労働者が円安を理由に日本ではなく韓国やオーストラリアを選ぶようになった現場の声についても、詳しく書かれています。ぜひ本書でその全貌を確かめてみてください。

「豊かさ」の定義が、静かに書き換えられた

この本を読んでから、ニュースの受け取り方が変わりました。以前は「春闘で○%の賃上げ合意」という見出しを見ると、単純に良いニュースだと受け取っていました。でも今は、その賃上げ分が誰のコストに転嫁されるのかを、自然と考えるようになりました。

観光客でにぎわう街を見ていても、以前とは景色が違います。外国人が格安で旅行できるということは、その分だけ自分たちの暮らしが安売りされているということでもあります。インドネシアの造船技能工が時給1700円の韓国を選び、日本の1200円の求人に応募しなくなったというエピソードは、対岸の話ではなかった。日本という場所の価値が、じわじわと値下がりしている。その事実が、物価や為替の数字の裏に隠れていたのだと気づいたとき、毎日の買い物や家賃や光熱費の重さの意味が変わりました。日常のあの「しっくりこない感覚」には、ちゃんと理由があったのです。

「景気回復」という言葉を信じていた、自分へ

一橋大学名誉教授であり、財務省(旧大蔵省)出身でもある野口悠紀雄氏は、金融政策の内側を知る立場から40年以上にわたって日本経済を分析してきた経済学者です。サントリー学芸賞、吉野作造賞など権威ある賞を受けた著者が「日銀は限界を超えている」と言うとき、その言葉の重さは評論家のものとは異なります。

表面の数字を信じたまま生きていると、違和感の正体がわからないまま過ごすことになる。スーパーで節約しながら、春闘のニュースに「良かった」と思い続ける。その認識のずれを、本書はていねいにほどいてくれます。

野口悠紀雄著『日銀の限界 円安、物価、賃金はどうなる?』はこちらから読めます。

内容紹介

2024年に日銀の限界が露呈した。
第一に日銀は、異常な円安を止めようとしなかった。
第二に株価が暴落すると、株価の動向を気にし、利上げを躊躇するようになった。
第三に、企業が賃上げを販売価格に転嫁するのを、日銀は「物価と賃金の好循環」であり、望ましいことだとしている。
しかし、これでは物価が上昇するし、物価上昇が止まらなければ、名目賃金が増えても実質賃金が増えることはない。
企業の利益は増えているのに、なぜ国民の生活は苦しくなる一方なのか? 
日米トップの交代で日本経済は今後どうなっていくのか? その詳細を徹底解説。

出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。

書誌情報

書名
日銀の限界 円安、物価、賃金はどうなる? (幻冬舎新書 752)
著者
野口悠紀雄
レーベル
幻冬舎新書
出版社
幻冬舎
発売日
2025年1月22日
ISBN
4344987551