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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

一億総中流——その言葉が、見えない断層を覆い隠していた

日本は、まだ「みんな中流」の社会だと思っていた

日本は格差が小さく、多くの人がそこそこの暮らしをする「一億総中流」の社会だ——子どものころに聞いたその言葉を、どこかでまだ信じていました。豊かな人も苦しい人もいるけれど、社会の真ん中には分厚い中流層が広がっている、と。けれど実際の生活実感はその言葉とずれていて、なぜ自分のまわりにこれほど苦しさが漂っているのか、うまく説明がつかない居心地の悪さがありました。みんな同じくらいの暮らしのはずなのに、現実には明らかな開きがある。その矛盾を、努力や運の問題として個人の話に閉じ込めてきたのです。橋本健二著『新・日本の階級社会』を読んで、その言葉が覆い隠していたものが見えました。

「中流」は分解し、第五の階級が生まれていた

本書が膨大なデータから描き出すのは、中流社会という像がすでに分解しているという現実です。著者は現代日本を、資本家階級・新中間階級・旧中間階級・労働者階級という四つの階級に分けたうえで、そこに収まりきらない第五の層が新たに出現したと指摘します。それが「アンダークラス」です。非正規労働を中心とするこの層は900万人を超え、就業人口のおよそ15%を占めるほどの規模に膨らんでいる。本書のデータでは、男性の3割が貧困ゆえに家庭を持てず、母子世帯を中心とするひとり親世帯の貧困率は50.8%に達するとされています。一億総中流という言葉の足元で、はっきりとした断層が走っていたのです。さらに本書は、親が労働者階級なら子も労働者階級になりやすいといった階級の固定化や、配偶者の有無で生活が大きく分かれる女性たちの状況にも踏み込みます。生まれ落ちた場所が、その後の人生の幅を静かに決めてしまう——そんな現実が数字で突きつけられます。各階級の意識や政治的傾向の違いまで、データに基づいて細かくたどられます。その先は、ぜひ本書で確かめてみてください。

社会を見る目盛りが、一段細かくなった

この枠組みを知ってから、世の中の見え方が変わりました。以前は、苦しい人がいるのは景気が悪いから、くらいの大ざっぱな理解で止まっていました。けれど今は、ニュースで非正規雇用や子どもの貧困の話題に触れたとき、それがアンダークラスという構造の問題として像を結ぶようになりました。漠然と感じていた社会のしんどさに、輪郭と目盛りが与えられた感覚です。電車で隣に座った人や、すれ違う同世代の人を見ても、この社会のどこに立っているのだろうと考えるようになりました。自分や身近な人がどの層にいるのかを意識するようになり、ぼんやりした不安が、向き合える具体的な問いへと変わっていきました。

知らないままなら、ただ景気のせいにしていた

この本を読まなければ、私は社会の苦しさをこれからも「なんとなく不景気だから」とか「努力が足りないから」で片づけ、構造に目を向けないままだったはずです。著者の橋本健二さんは早稲田大学人間科学学術院の教授で、長年にわたり階級・格差を研究してきた社会学者です。本書の結論には政治的だという批判もあり、データの読み方をめぐって読者の評価は割れますが、それでも一億総中流という思い込みに具体的な数字を突きつけた一冊であることは確かです。あなたが当たり前と思っている「中流」の像にも、見えない断層が走っているかもしれません。

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新・日本の階級社会 (講談社現代新書) 橋本健二 / 講談社現代新書

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