新書嫁レビュー
お金は「物々交換の便利な道具」として生まれた——その通説が、実は怪しい
2026-06-13
お金は交換を便利にするために発明された、と信じていた
お金の成り立ちと言われて思い浮かべるのは、たいてい同じ筋書きです。昔の人は物々交換に苦労していた、魚を持つ人と米を持つ人がうまく出会えなかった、だからその不便を解消する道具としてお金が発明された——。私もずっとそう理解していました。けれど、その説明をなぞるほど、なぜか落ち着かない気持ちが残ります。だったらお金とは単なる便利なツールのはずなのに、なぜこれほど人を動かし、人生を左右するのか。その違和感の正体を言い当ててくれたのが、山口揚平著『新しい時代のお金の教科書』です。
山口揚平著『新しい時代のお金の教科書』はこちらから読めます。
お金の起源は「信用」と「記帳」だった
本書が紹介するのは、近年の研究で語られるお金の別の起源です。お金は物々交換の延長ではなく、誰が誰にどれだけ貸し借りがあるかを記録する「信用」と「記帳」の仕組みとして始まった、という見方です。象徴的な例として登場するのが、ミクロネシアのヤップ島で使われた巨大な石の貨幣フェイです。重すぎて持ち運べないこの石は、実は動かす必要がありませんでした。誰のものになったかという取引の事実を島の人々が記憶し共有することこそが、貨幣として機能していた。つまりお金の本質は、モノそのものではなく、人と人のあいだに置かれた信用の記録だったというわけです。この一点を受け取るだけで、お金という存在の輪郭がまるで違って見えてきます。財布の中の紙幣や硬貨は、それ自体に価値があるのではなく、社会全体が共有する信用を映す鏡のようなものだったのだ、と。読者からは「文脈毀損コスト」という著者独自の概念が斬新だったという声もあり、本書ではさらに、信用を軸にした経済がこれからどう広がっていくか、そして二十一世紀をどう生きるかという問いにまで踏み込んでいきます。その先はぜひ本書で確かめてみてください。
「お金を貯める」より「信用を貯める」に意識が向いた
この視点を得てから、お金との向き合い方が静かに変わりました。以前は、口座の残高という数字をどれだけ増やせるかばかりを気にしていました。けれど今は、自分が周りからどれだけ信頼を積み重ねられているかを、もう一つの大切な財産として意識するようになりました。たとえば人に何かを頼まれたとき、面倒だと感じて反射的に距離を置くのではなく、ここで応えることが将来の信用になるのだと考えられるようになった。お金を追いかけて消耗する感覚が薄れ、人とのつながりそのものが豊かさにつながっていると思えるようになったのです。約束を守る、丁寧に仕事をする、誰かの役に立つ。これまで損得とは別の場所にあった行いが、長い目で見れば確かな資産を築いているのだと実感できる。世界の見え方が、数字一辺倒からぐっと広がりました。
知らないままでは、お金に振り回され続けていた
この本を読まなければ、私はお金を「便利な道具」として表面だけ理解したまま、その正体を考えずに過ごしていたはずです。著者の山口揚平氏は、大手コンサルティング会社で企業の再生やM&Aに携わったのち独立し、貨幣論や情報化社会論を専門に発信を続けてきた人物です。お金を実務と思想の両面から見つめてきた著者だからこそ、私たちが当たり前と思っている前提をていねいに崩してくれます。自分もお金の通説を疑わずにいたかもしれないと感じた方に、そっと差し出したい一冊です。
山口揚平著『新しい時代のお金の教科書』はこちらから読めます。
内容紹介
お金の始まりは物々交換ではなかった?!仮想通貨、時間通貨…お金とはそもそも何なのか?どんな仕組みなのか?目まぐるしく変化する今こそ知っておきたいお金の話。
出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。
書誌情報
- 書名
- 新しい時代のお金の教科書 (ちくまプリマー新書)
- 著者
- 山口 揚平
- レーベル
- ちくまプリマー新書
- 出版社
- 筑摩書房
- 発売日
- 2017年12月5日
- ISBN
- 448068994X