新書嫁レビュー
「君臨すれども統治せず」——その言葉を私は誤解していた
2026-06-02
女王は飾りの存在だと思っていた
イギリスの女王と聞いて、私が思い浮かべていたのは、儀式に出席し、笑顔で手を振る象徴的な存在でした。「君臨すれども統治せず」という有名な言葉も、要するに政治には関わらないお飾りなのだ、と単純に受け取っていたのです。実際の権力は政治家が握り、王室は伝統を守るための装飾品にすぎない。そう思い込んだまま王室のニュースを眺めていると、なぜこれほど長く制度が続くのか、どこか腑に落ちないものが残っていました。その違和感をほどいてくれたのが、君塚直隆さんの『エリザベス女王 史上最長・最強のイギリス君主』です。
君塚直隆著『エリザベス女王 史上最長・最強のイギリス君主』はこちらから読めます。
女王は「最も経験豊かな政治家」だった
この本が明かすのは、お飾りとはほど遠い女王の姿です。1952年に25歳で即位したエリザベス女王は、イギリス本国だけでなく、カナダやオーストラリアなど16か国の元首でもありました。在位中、チャーチルをはじめ十数人もの首相が彼女のもとで政権を担い、女王は「政治的な経験を長く保てる唯一の政治家」とまで評されたといいます。考えてみれば当然のことで、首相は数年で交代しても、女王だけは何十年も国政の中心に座り続ける。新たに就任した首相は、毎週のように女王と会い、その豊富な経験に裏打ちされた助言に耳を傾けてきました。表向きは統治しないように見えて、70年近い在位のなかで政治や外交に深く関与し、数々の事件や危機に直面してきた。本書はイギリス現代史をたどりながら、その舞台裏での女王の役割を丁寧に描き出します。激動の20世紀を、王室はどう生き延びたのか。「君臨すれども統治せず」という言葉が、権力を放棄することではなく、むしろ長い時間をかけて影響力を保つ流儀だったとしたら——その核心は、ぜひ本書で確かめてみてください。
王室のニュースが、立体的に見えてきた
この本を読んでから、王室の報道の見え方が変わりました。以前は、戴冠式や外国訪問のニュースを「華やかな儀式」としてしか眺めていませんでした。今は、首相が官邸を出て宮殿へ向かう場面を見ると、そこで交わされているはずの政治的な対話や、何十年もの経験に支えられた助言の重みを想像するようになったのです。象徴と実権、伝統と政治。対立するように見えていたものが、一人の人物のなかでどう両立していたのか。その緊張感を思いながら見ると、同じニュースがまるで奥行きの違うものに感じられます。たとえば新しい首相が誕生したという速報を見ても、以前は名前を確認して終わりでした。今はその裏で、長く国政を見つめてきた王室との関係がどう動くのかまで気になる。ぼんやり眺めていたイギリスという国の制度の輪郭が、急にくっきりと立ち上がってきました。
知らなければ、ずっと表面だけ見ていた
この本に出会わなければ、私は王室をいつまでも「手を振るだけの儀式の人たち」としか見ていなかったと思います。著者の君塚直隆さんは近代イギリス政治外交史を専門とする歴史学者で、オックスフォード大学に留学し、王室研究を長く重ねてきました。『立憲君主制の現在』では第40回サントリー学芸賞を受賞しています。立憲君主制という制度を内側から知り尽くした専門家だからこそ書ける、報道の見出しだけでは届かない視点が一冊を貫いています。「君臨すれども統治せず」という言葉を、政治に関わらないという意味だと文字どおりに受け取っている人は、きっと少なくありません。その誤解をほどくだけで、ニュースの一つひとつが違って見えてきます。君塚直隆著『エリザベス女王 史上最長・最強のイギリス君主』はこちらから読めます。
内容紹介
1952年に25歳で英国の王位に即いたエリザベス女王(1926〜)。カナダ、オーストラリアなど16ヵ国の元首でもある。ウィンストン・チャーチル、サッチャー、ジョンソンら十数人の首相が仕え「政治経験が長く保てる唯一の政治家」と評される彼女は、決して”お飾り”ではない。70年近い在位の間には、ダイアナの死をはじめ、数多くの事件に遭遇、政治に関与し、20世紀末には強い批判も受けた。本書はイリス現代史を辿りつつ、幾多の試練を乗り越えた女王の人生を描く。
出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。
書誌情報
- 書名
- エリザベス女王-史上最長・最強のイギリス君主 (中公新書)
- 著者
- 君塚 直隆
- レーベル
- 中公新書
- 出版社
- 中央公論新社
- 発売日
- 2020年2月1日
- ISBN
- 4121025784