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エビと日本人 (岩波新書 新赤版 20)

村井 吉敬

岩波新書 新赤版 / 岩波書店

1988年4月20日発売

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新書嫁レビュー

日本人はもともとそれほどエビが好きではなかった、という事実が食卓の見え方を変えた

2026-05-05

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「日本人はエビ好き民族だ」とずっと思っていた

エビフライ、エビの天ぷら、エビチリ、エビピラフ——日本の食卓にこれほどエビが並ぶのは、日本人がもともとエビを好む民族だからだと、当然のように思っていました。寿司屋に行けば海老が人気ネタとして並び、お祝いの席には伊勢海老が出る。エビを愛する文化がこの国にはある、と疑ったことがありませんでした。

でも、毎年大量のエビを食べながら、どこかに引っかかりがありました。スーパーに並ぶエビのパッケージに書かれた産地——インドネシア、タイ、ベトナム、インド。どんな場所で、誰が獲って、どんな経緯でここに来たのか。安さの背後に何があるのかを、知らないまま買い続けていました。

村井吉敬著『エビと日本人』を読んで、その引っかかりの正体が見えてきました。

村井吉敬著『エビと日本人』はこちらから読めます。

「エビ好き日本人」は作られた文化だった

本書が明かす最初の事実は意表をついていました。歴史的に見ると、日本人はそれほどエビを好んで食べていたわけではないのです。エビが日本の食卓に広く普及したのは、商社・エビ問屋・冷凍食品メーカー・スーパーマーケット・政府がそれぞれの利害を一致させ、意図的に食の嗜好を変えた結果だというのです。

そしてもう一つの数字に、読む手が止まりました。日本の消費者がエビに支払う金額のうち、現地の漁師が手にするのはわずか7.5%。残りの92.5%は流通・加工・輸送・小売りの過程でどこかに消えていきます。著者はインドネシアでトロール漁船に乗り込み、台湾で養殖の現場を歩き回り、「エビを獲る人びと」「エビを育てる人びと」「エビを加工する人びと」の実態を丁寧に記録しています。

本書にはさらに、エビ養殖がアジアの沿岸環境をどう変えていったか、日本のODAと水産業の関係といった、より深い構造的問題についても踏み込んだ章が続きます。ぜひ本書でその全貌を確かめてみてください。

スーパーのエビ売り場の前で、立ち止まるようになった

読む前と後で、買い物のときの感覚が変わりました。以前は「安いエビがあった」という事実だけで手を伸ばしていました。今は、その値札の裏側に連なる長い鎖を意識します。誰かが海に出て、誰かが工場で剥いて、何千キロを渡ってきた。その全過程のわずか7.5%が生産者に届く構造の中で、この値段が成立している。

それは単なる罪悪感ではなく、食べることの意味を問い直す感覚です。日本の食卓の豊かさが何の上に成り立っているかを知ること——それを知った上でどう選ぶかは、各自が判断することです。でも知らないまま消費し続けることと、知った上で選ぶこととでは、日常の質感がまったく違うと感じるようになりました。

「食べる」という行為が世界とつながっていると気づかせてくれた

村井吉敬(1943-2013)は早稲田大学政治経済学部を卒業後、インドネシアのパジャジャラン大学に留学し、東南アジアの経済史を専門とした研究者です。上智大学外国語学部教授を経て、晩年は早稲田大学アジア研究機構教授を務めました。長年にわたる現地調査と鋭い経済分析に基づく本書は、食と国際構造の問題を扱う古典として今も読み継がれています。

この本を読まなければ、「日本人はエビが好き」という当たり前の前提を一度も疑わなかったでしょう。その前提自体が誰かの手で作られたものだという視点は、食卓の向こう側にある世界への問いを開きます。

村井吉敬著『エビと日本人』はこちらから読めます。

内容紹介

プロローグ──なぜエビか?
  バナナとエビ
  なぜエビをとりあげるか?
  歩く・見る・議論する

1 エビを獲る人びと──トロール漁の現場──
 真珠とエビ──インドネシアの海で
 「海の銀座」
 雑魚はスコップで海へ
 「トロール? 困ったもんだ」
 漁民と日系企業
 ナマコからエビへ──オーストラリアで
 エビ・タウンの前途は?
 撤退するエビ開拓者ニッポン
 「養殖に食われる」

2 エビという生き物──生態・種類・獲られ方──
 マングローブ林を歩いてみた
 クルマエビ属の生活史
 エビの種類──私たちが食べているのは?
 さまざまなエビ漁法
 日本のエビ漁

3 エビを育てる人びと──養殖をインドネシア・台湾に見る──
 南スラウェシは“エビ・ブーム”
 養殖漁民ラトンコさんの場合
 村で進む商品経済化
 集買人アリフィンさんに聞く
 稚エビ漁民からエビ成金まで
 許さんの養殖池──台湾のブラック・タイガー
 「エビに翻弄される」──廖さんは語る
 「クルマエビを安く食膳に」──藤永元作の夢
 ブラック・タイガー養殖の成功

4 エビを加工する人びと──調味料づくり・殻剝き・箱詰め──
 調味料トゥラシをつくる女性たち
 「エビは寒い」──“熱帯の南極”で
 日系冷凍工場の内側
 サイズの国際規格
 女工さんたちの賃金
 日本へ──開発輸入と買付け輸入

5 エビを売る人、食べる人──この四半世紀に何が起きたか?──
 デパートの食料品売場で
 なぜ祝宴に?──エビ食の昔と今
 エビフライ・天ぷら・チリソース…
 自由化の後に──輸入急増の背景
 コールドチェーンと冷凍食品の普及
 商社・食品業界・スーパーの戦略
 流通ルートはどうなっているか?
 「南」は獲る人、「北」は食べる人
 輸入食料品のトップに
 第三世界との関係はこれでよいのか?

エピローグ
  「現場」情報を消費者に
  エビ輸入と第三世界
  顔のみえる関係を

あとがき

出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。

書誌情報

書名
エビと日本人 (岩波新書 新赤版 20)
著者
村井 吉敬
レーベル
岩波新書 新赤版
出版社
岩波書店
発売日
1988年4月20日
ISBN
4004300207