新書嫁レビュー
物理の公式は「覚えるもの」だと思っていた。アインシュタインが語る、物理学という探偵小説
2026-04-20
物理学は「公式を覚えて問題を解く教科」だと思っていた
学校で物理を習ったとき、最初にすることは公式を覚えることでした。F=ma、v=v₀+at、そしてそれを使って問題を解く。なぜその公式が成り立つのかよりも、どう使うかが試験に出る。授業が終わるたびに、物理とはこういうものだと自分に言い聞かせ、でもどこかずっとしっくりこないものを感じていました。ガリレオやニュートンが何かを「発見した」と教科書には書いてあるのに、その発見がどういう経緯で生まれたのか、誰も教えてくれなかったのです。
アインシュタイン・インフェルト著(石原純訳)『物理学はいかに創られたか(上)』はこちらから読めます。
「物理学は探偵小説に似ている」とアインシュタイン自身が書いていた
この本を開いてすぐ、驚く一文に出会います。アインシュタインとインフェルトは、物理学者と探偵を並べて語ります。探偵は現場に残された手がかりから推理して真実を導く。物理学者も自然現象という手がかりから法則を導く——その過程は論理の積み重ねであり、ドラマであると。
ガリレオが斜面を転がる球の速度を測ったのは、落下運動の謎を解くためでした。当時の常識では「重い物ほど速く落ちる」はずだった。しかしガリレオは実験を重ね、重さに関係なく速度は一定の割合で増すことを示しました。これは教科書の1行で片付けられる話ではなく、2000年間続いたアリストテレスの「常識」を覆す、謎解きでした。本書はその後、ニュートン力学から電磁気学、マクスウェルの場の概念へと至る物理学の歴史を、一本の探偵小説のように語っていきます。数式は一つも登場しません。その先の展開は、ぜひ本書で確かめてみてください。
「公式がなぜ成り立つのか」という疑問の答えが、ここにあった
この本を読んだ後、物理の教科書をもう一度開いてみました。F=maというニュートンの運動方程式は、ただ暗記する記号の羅列ではなく、「力と質量と加速度の間にこういう関係がある」と2000年かけて人類が発見した事実の結晶でした。公式を覚えても全くつまらなかったのは、その背後にある謎解きの物語が切り取られていたからだと気づきました。
本を読んでから、街を歩いていてふと物が落ちるのを見たとき、ガリレオが何百年も前に同じ光景に向き合っていたことが頭に浮かびます。揺れるシャンデリアを見てガリレオが振り子の等時性を発見したという話、リンゴが落ちるのを見てニュートンが引力を考えたという話——こういったエピソードは単なる伝説ではなく、物理という探偵小説の「序章」だったのだと、この本を読んで初めてわかりました。物理学は暗記教科ではなく、人間の好奇心の記録です。
ノーベル賞物理学者を育てた一冊
アルベルト・アインシュタインは1879年ドイツ生まれ。特殊相対性理論(1905年)、一般相対性理論(1915年)を提唱し、1921年のノーベル物理学賞を受賞しました。共著者のレオポルト・インフェルトはポーランド出身の理論物理学者で、本書は1938年に二人がプリンストン高等研究所で共同執筆したものです。訳者の石原純は物理学者・歌人として知られる人物で、1940年代の日本に物理の思想を届けることを使命としていました。日本では、のちにノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊が中学生のときにこの本を読んで「物理学者になろうと決めた」と語っています。
この本を読まなければ、物理学を一生「公式の羅列」として誤解したまま終わっていたはずです。学校教育が切り取った「答え」ではなく、答えに至るまでの「問い」こそが物理学の本体だということを、アインシュタイン自身が教えてくれます。
アインシュタイン・インフェルト著(石原純訳)『物理学はいかに創られたか(上)』、購入はこちらから。
内容紹介
訳者序
原著序文
謝 辞
1 力学的自然観の勃興
大きな謎物語
最初の手がかり
ベクトル
運動の謎
残る一つの手がかり
熱は物質であるか
スウィッチバック
換算の割合
哲学的背景
物体の運動学的理論
2 力学的自然観の凋落
二つの電気流体
磁気流体
最初の重大困難
光の速さ
実体としての光
色 の 謎
波動とは何か
光の波動説
光は縦波か横波か
エーテルと力学的自然観
3 場・相対性㈠
表示方法としての場
場の理論の二つの柱石
場の実在性
場とエーテル
出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。
書誌情報
- 書名
- 物理学はいかに創られたか(上) (岩波新書)
- 著者
- アインシュタイン / インフェルト
- レーベル
- 岩波新書
- 出版社
- 岩波書店
- 発売日
- 1963年9月20日
- ISBN
- 4004000149