新書嫁レビュー
関ヶ原で三成が勝っていたら、という一行から世界が変わる
2026-05-30
関ヶ原の結末は、もう変えようがないと思っていた
関ヶ原の合戦と聞けば、結末は決まっています。徳川家康が勝ち、石田三成は敗れ、そこから二百六十年の江戸時代が始まる。動かしようのない史実として、私はその一点を疑ったことがありませんでした。けれどその「決まりきった結末」には、いつもどこか味気なさもありました。あのとき別の選択があったなら、歴史はどう転がっていたのか。その問いを、私たちは「ありえないこと」として早々に閉じてしまう。中里融司さんの『異戦関ヶ原4』は、まさにその閉じた扉を勢いよく押し開け、もう一つの関ヶ原を全力で描き出す仮想戦記シリーズの一冊です。
中里融司著『異戦関ヶ原4』はこちらから読めます。
「もし三成に百万石があったら」という大胆な設定
本シリーズが立てる問いはじつに大胆です。もし石田三成が、秀吉の死後に百万石という大領を与えられていたら。その圧倒的な力を背景に家康打倒の兵を挙げたら、関ヶ原はどんな合戦になっていたか。史実とは異なる布陣が出現し、家康が予想外の対応を迫られていく様子が、緻密な戦史考証をもとに描かれます。私が引き込まれたのは、ただの願望充足の物語ではなく、当時の地理や兵站、武将たちの思惑を踏まえて「ありえたかもしれない歴史」を組み立てていく筋立ての確かさでした。たった一つ「三成が百万石を持っていたら」という条件を変えるだけで、誰がどちらに付くか、どの城が要になるか、合戦の力学そのものが連鎖的に組み替わっていく。その因果のつながり方が読んでいて実に腑に落ちるのです。第四巻にあたる本書では、関ヶ原での激戦を経て戦いの舞台がさらに西へと広がり、三成が己の本領である筑前の統治を固め、西海道から大兵を率いて、日本最強と謳われた島津との大勝負へと向かっていきます。この先どんな決着が待つのか、ぜひ本書で確かめてみてください。
史実を「唯一の正解」と見なくなった
このシリーズに触れる前、私にとって歴史は「起きたことの記録」でしかありませんでした。けれど読んだあと、史実とは無数にありえた可能性のうち、たまたま実現した一本の線にすぎないのだと感じるようになりました。教科書で関ヶ原のくだりを読み返すときも、以前なら結果だけを追っていた場面で、ここで三成がこう動いていたら、小早川が裏切らなかったら、と分岐点を想像するようになったのです。観光で古戦場を訪れたときも、ただの跡地だった場所が、いくつもの未来が分かれた交差点のように見えてきました。歴史を「変えられない過去」ではなく「選択の連なり」として眺める。その視点は、過ぎたことへの見方そのものを立体的にしてくれました。
知らないままなら、関ヶ原を結果だけで終わらせていた
この一冊に出会わなければ、私は関ヶ原をただの結末として記憶し続けていたはずです。著者の中里融司さんは、歴史群像大賞の優秀賞を受けてデビューした作家で、戦史研究にも通じた書き手として架空戦記の分野で多くの作品を残しました。武将の配置や兵の動きを一つひとつ史実に照らして組み立てていく、その細やかな目配りがあるからこそ、突飛な空想ではなく「ありえたかもしれない」と思わせる説得力が生まれるのだと感じます。本書を読み終えると、歴史の教科書をめくる手つきまで少し変わります。決まりきったと思っていた過去に、別の風が吹く瞬間を味わいたい方にこそ、開いてほしい一冊です。
中里融司著『異戦関ヶ原4』はこちらから読めます。
内容紹介
西海道を斬り従えて上方にのぼるべく、兵を九州に返した石田三成は、薩摩の強豪・島津勢に攻められている西軍側の諸大名を救出するため、延岡城下で合戦に及ぶ。釣り野伏せりを警戒し、伏兵をひとつひとつ潰していく三成勢だが、「鬼島津」の巧妙さは、三成側の予想を遙かに上回っていた。一方、徳川家康は大坂城に蟠踞し、佐和山城を中心に近江を要塞化している大谷吉継を攻略しようと企む。また、肥後の虎・加藤清正が三成の博多城に襲いかかるべく、破竹の勢いで進撃を続ける。天下分け目の戦いが生み出した争乱は拡大の一途を辿り、日の本に再び乱世の嵐を巻き起こした。
出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。
書誌情報
- 書名
- 異戦関ヶ原4 (歴史群像新書 143-4)
- 著者
- 中里 融司
- レーベル
- 歴史群像新書 143-
- 出版社
- Gakken
- 発売日
- 2004年10月1日
- ISBN
- 4054026036