新書嫁レビュー
「社会学は社会現象を分類して記述する学問だ」という思い込みが、社会学が人間と社会の未来を問う格闘の学問だという事実を見えなくしていた
2026-05-16
「社会学とは社会の現象をデータで分析し分類する学問であり、現状を記述することが主な仕事だ」とずっと思っていた
社会学というと「社会調査」「統計分析」「格差の実態」——そういう言葉が浮かびました。社会の問題を数字で捉え、傾向を分類して記述する学問であり、「どうあるべきか」という価値判断は社会学の守備範囲外だという感覚がありました。社会学を専攻した人が就職活動で「社会学で何を学んだか説明しにくい」という話を聞いて、その感覚がさらに強まっていました。
でも、社会学の本を読むたびに「単なる記述ではない何か」を感じていました。社会学が問っているのは「現状の分析」だけではなく、「人間はどのように生きるべきか、社会はどのような未来へ向かうべきか」という問いではないかという感覚がありましたが、言語化できないままでいました。
見田宗介著『社会学入門 人間と社会の未来』を読んで、その感覚の正体がわかりました。
見田宗介著『社会学入門 人間と社会の未来』はこちらから読めます。
社会学の「魂」は、転換の時代に人間と社会の可能性を問い続けることにあった
著者が本書で示す核心は、社会学の本質が現状の記述ではなく「転換の時代にあって〈未来〉を構想する学問的探求の魂」にあるという事実です。著者は「夢の時代」(1960〜70年代)から「虚構の時代」(80〜90年代)への移行を論じながら、近代社会が「魔のない世界」へと向かう過程で失われたものと、そこから新たに見えてくるものを問います。
特に印象的なのは「交響圏とルール圏」という概念です。「交響圏」とは人々が共に響き合い生きる領域であり、「ルール圏」とは法や規則によって調整される領域です。現代社会では「ルール圏」が肥大化し「交響圏」が縮小していますが、著者は「交響圏」を守り拡げることが、現代社会の問いへの応答になると論じます。大学で40年間教え続けた著者の問いかけが、語りかけるような文体で凝縮された本書は、社会学を「現象の分類」ではなく「人間の可能性への探求」として提示します。本書にはさらに、愛の変容・自我の変容・二千年の黙示録という現代社会の深部への問いが続きます。ぜひ本書でその全貌を確かめてみてください。
「社会の問題」が他人事から自分事へと変わった
読む前と後で、社会問題への向き合い方が変わりました。以前は社会の問題を「分析して理解するもの」として受け取っていました。でも今は、「自分はどのような社会を望むのか、その望みの根拠は何か」という問いを持つようになりました。
具体的には、経済格差・環境問題・孤立といった社会的な問題を見るとき、「これは現状として記述するべき問題」ではなく「どのような方向に変えていけるのか」という問いを立てるようになりました。「交響圏」という概念を知ることで、「自分の周りに、人々が響き合い生きている場所があるか」という問いが生まれ、日常の関係性への見方が変わりました。社会学が「未来を問う学問」であるという認識が、社会問題への関わり方を観察から参加へと変えていく感覚が生まれました。
東京大学名誉教授として現代社会論を牽引した著者が、40年の問いを新書に凝縮した
見田宗介(1937年生まれ)は東京大学名誉教授として現代社会論・比較社会学・文化の社会学を専門とし、「現代日本の精神構造」「時間の比較社会学」などの著作で日本の社会学を牽引してきた研究者です。本書は40年の大学での講義の蓄積を凝縮した集大成であり、社会学の「入門」でありながら著者の社会への問いの深さが全編に溢れています。
この本を読まなければ、社会学を現象の分類と記述の学問として理解したまま、人間と社会の未来を問い続けることが社会学の魂だという事実と向き合う機会を持てないままでいたでしょう。
見田宗介著『社会学入門 人間と社会の未来』はこちらから読めます。
内容紹介
「人間のつくる社会は、千年という単位の、巨きな曲り角にさしかかっている」-転換の時代にあって、世界の果て、歴史の果てから「現代社会」の絶望の深さと希望の巨大さとを共に見晴るかす視界は、透徹した理論によって一気にきりひらかれる。初めて関心をもつ若い人にむけて、社会学の「魂」と理論の骨格を語る、基本テキスト。
出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。
書誌情報
- 書名
- 社会学入門: 人間と社会の未来 (岩波新書 新赤版 1009)
- 著者
- 見田 宗介
- レーベル
- 岩波新書 新赤版
- 出版社
- 岩波書店
- 発売日
- 2006年4月20日
- ISBN
- 4004310091