新書嫁レビュー
「文法的に正しい英語を話せれば十分だ」という思い込みが、微妙なニュアンスが相手の心証を根底で変えるという事実を見えなくしていた
2026-05-12
「英語は文法と語彙が正しければ通じる、ニュアンスの細かい違いは気にしなくていい」とずっと思っていた
英語の勉強といえば文法と単語の暗記であり、間違えずに意味が通れば英語は「できている」という感覚がありました。「I'll do it」でも「I'm going to do it」でも相手には同じように「やります」という意味で伝わるはずだし、映画の台詞に出てくる表現の違いは俳優の個性やシナリオの都合によるものだと思っていました。外国語でそこまでの細かさを求めることは、上級者だけの話だという前提がありました。
でも、英語でコミュニケーションをとるたびに「なんとなくよそよそしい」「思ったより強い反応が返ってきた」という感覚がありました。意味は伝わっているはずなのに、何かが微妙にずれているという違和感の正体を説明できませんでした。
マーク・ピーターセン著『心にとどく英語』を読んで、その違和感の正体がわかりました。
マーク・ピーターセン著『心にとどく英語』はこちらから読めます。
「I'll do it」と「I'm going to do it」では、相手への心証がまったく違った
著者が本書で示す核心は、英語のニュアンスの違いは「言い方のスタイル」ではなく、話し手の心の状態と意図を相手に伝える構造的な違いだということです。「I'll do it」はその場で決断した意志であるのに対し、「I'm going to do it」はすでに計画・予定していたことを示します。上司から指示を受けたとき「I'm going to do it」と答えれば、「もうやるつもりでした」というニュアンスが出てしまい、場合によっては反抗的に聞こえることさえあります。
本書は映画や戯曲の名場面を素材として、さりげない気遣いの表現、やんわりとした拒絶、微妙な感情の揺れを伝える英語表現の世界を案内します。著者が映画の台詞を引用して語るとき、その場面で登場人物が選んだ言葉が、その人物の感情状態と人間関係の力学をどのように正確に反映しているかが浮かび上がります。「正しい英語」と「心に届く英語」は別物だという認識が、具体的な台詞の分析を通じて体感されます。本書にはさらに、気遣いと拒絶、感情の揺れを微妙に伝える表現の実例が豊富に収録されています。ぜひ本書でその全貌を確かめてみてください。
映画を観るときも、英語を使うときも、言葉の解像度が変わった
読む前と後で、英語との向き合い方が変わりました。以前は映画の台詞を「意味が分かれば十分」として受け取っていました。でも今は、「なぜこの場面でこの言葉が選ばれたのか」という問いを持ちながら台詞を聞くようになりました。
具体的には、映画の会話シーンで登場人物の感情の機微が台詞の選択に現れていることが見えるようになりました。意地を張った言い方、感情を抑えた言い方、急に親密になった瞬間の言葉の変化——以前は演技として受け取っていたものが、言語の構造的な選択として読めるようになりました。また英語を使う場面では、「この場面では何を意図して伝えたいのか」を考えてから言葉を選ぶようになりました。意味が通る英語から、心に届く英語へ——その距離が縮まった実感があります。
明治大学で30年以上教鞭をとったアメリカ人英文学者が、映画の台詞で英語の心を語る
マーク・ピーターセンはアメリカ出身で、明治大学文学部教授として30年以上にわたり日本で英語・英文学を教えてきた研究者です。前著『日本人の英語』(岩波新書)が大きな反響を呼び、本書はその続編として「心に届く表現」という側面に絞り込んだ一冊です。日本語で語りかけるような文章で書かれており、英語学習の入口から上級者まで幅広く読み継がれています。
この本を読まなければ、文法的に正しい英語を話せれば十分と思ったまま、ニュアンスの選択が相手の心証と人間関係を根底で変えるという英語の本質と向き合う機会を持てないままでいたでしょう。
マーク・ピーターセン著『心にとどく英語』はこちらから読めます。
内容紹介
上司の指示への応じ方として、I’ll do it.とI’m going to do it.とでは、相手の心証はどう違ってくるのか。人間関係の基本ツールとしての英語にスポットをあて、映画や戯曲の場面も引きながら、さりげない気遣いや拒絶など、微妙なニュアンスを豊かに伝える英語表現の世界を案内する。『日本人の英語』(正・続)につづく話題作。
出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。
書誌情報
- 書名
- 心にとどく英語 (岩波新書 新赤版 604)
- 著者
- マーク ピーターセン / Mark Petersen
- レーベル
- 岩波新書 新赤版
- 出版社
- 岩波書店
- 発売日
- 1999年3月19日
- ISBN
- 4004306043