新書嫁レビュー
見栄っ張りは経済の敵だと思っていた——それは半分だけ正しい
2026-08-17
「見栄を張る消費」は浅ましいものだと思っていた
高い時計、ブランドのバッグ、SNSに上げる高級レストランの写真。こういうものを買う人を、私はどこかで「中身がない人なんだろうな」と冷めた目で見ていました。本当に必要なものだけを買う自分のほうが賢いと、ひそかに思ってもいたのです。でも、その物差しで世の中を眺めていると、なぜテスラやアップルがあれほど熱狂的に支持されるのかが、どうしても腑に落ちませんでした。性能だけでは説明がつかない熱があるのに、それを「みんな見栄っ張りだから」で片付けると、自分の中に小さなしこりが残り続けたのです。その違和感を根こそぎ崩してくれたのが、勝木健太さんの『「マウント消費」の経済学』でした。
勝木健太著『「マウント消費」の経済学』はこちらから読めます。
「マウント欲求」は経済を動かす原動力だった
本書が示すのは、「人より少し上に立ちたい」という、誰もが心の奥に隠し持つ欲求です。著者はこれを恥ずべきものとして断罪するのではなく、消費を生み出すエンジンとして捉え直します。たとえばテスラの車は、単なる移動手段や環境性能の話を超えて、「これを選んだ自分は時代を先取りしている」という感覚を所有者に与える。アップルの製品も同じで、機能のスペック表には載らない「選ばれた側にいる」という満足が、価格の一部になっているというのです。NewsPicksやSAPIXが支持を集める理由を、本書は「知っていること、学んでいること自体が一種のステータスになる時代」という切り口で読み解いていきます。本書には、こうした「モノからコト、そしてマウントへ」という消費の重心の移り方が、さらに踏み込んだ事例とともに描かれています。さらに著者は、この欲求を煽るだけでは消費者の反感を招きかねないという危うさにも触れ、企業がどう向き合うべきかという問いまで投げかけます。SNS時代の消費心理がどこへ向かうのか、その続きはぜひ本書で確かめてみてください。
自分の買い物の理由が、急に立体的に見えてきた
この視点を手にしてから、街の見え方が変わりました。喫茶店で隣の人が広げている本のタイトルが目に入ったとき、以前なら「読書家なんだな」で終わっていたのが、「この人はこの本を読む自分でありたいんだな」とまで想像が及ぶようになったのです。そして自分自身を振り返ると、こだわって選んだ文房具や、人に勧めたくなる新書も、純粋な実用だけで選んでいたわけではないと気づきました。「こういうものを選ぶ自分」を静かに肯定したかったのです。それは恥ずかしいことではなく、人が前を向いて生きるための、ささやかな燃料なのだと思えるようになりました。買い物のたびに少しだけ自分の本音が見える、その面白さが日常に加わりました。
知らないままだと、世の中の半分を見落とす
もしこの本に出会わなければ、私はずっと「見栄を張る消費は無駄」という単純な物差しで世界を裁き続けていたはずです。人の欲求を浅ましさとして切り捨てるのは簡単ですが、その奥にある「よりよく見られたい」という願いを認めない限り、現代の経済も人の心も半分しか見えてこない。著者の勝木健太さんは京都大学工学部を出て金融機関やコンサルティングの現場を歩み、自ら起業して会社を売却した経歴を持つ経営の実務家です。机上の理論だけでなく、消費の現場を見てきた人だからこそ書ける説得力があります。自分は本当に「中身で選んでいる」のか——そう一度立ち止まりたくなった方にこそ読んでほしい一冊です。
勝木健太著『「マウント消費」の経済学』はこちらから読めます。
※本記事にはアフィリエイトリンク(PR)が含まれます。
内容紹介
消費トレンドはモノ・コトからマウントへ
「こんな素敵な場所に旅行してきました」
「こんな美味しい料理を楽しみました」
「こんな特別な人と過ごしています」
SNSで頻繁に目にするこうした投稿。その背後には、多くの人が無意識のうちに抱える「マウント欲求」が潜んでいる。令和の日本では、SNSの普及とともにこの欲求が顕在化し、日常のあらゆる場面に深く浸透している。一見ネガティブに映るこの現象だが、実は日本経済を活性化させる「隠れた切り札」として大きな可能性を秘めている。
なぜテスラやアップルは次々と新たなイノベーションを生み出せるのか。
NewsPicksやSAPIXが絶大な支持を集める理由とは。
その答えは、「マウント消費」という次世代の消費トレンドに隠されている。
本書は、ベストセラー『人生が整うマウンティング大全』の企画・プロデュースを手掛けた筆者が、自身の豊富な知見を余すところなく凝縮した渾身の一作である。「マウンティング」という人間に備わる根源的な欲求が、どのように社会を進化させ、イノベーションを生み出し、経済を動かしてきたのか。そのメカニズムを解き明かしながら、これからの日本が目指すべき成長戦略を提示する。
【編集担当からのおすすめ情報】
「マウント」の本質に迫ることで、日本の未来を切り拓く道筋が鮮やかに浮かび上がっています。次世代の消費トレンドや価値観を鋭く分析し、独自の視点と抑制の効いたユーモアを交えて、これからの社会の在り方を鮮烈に描き出す──知的な挑発が光る本書は、読む方の思考を刺激し、新たな視座を提供することでしょう。
出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。
書誌情報
- 書名
- 「マウント消費」の経済学(小学館新書)
- 著者
- 勝木健太
- レーベル
- 小学館新書
- 出版社
- 小学館
- 発売日
- 2025年1月30日
- ISBN
- 9784098254859