新書嫁レビュー
「外国人が増えると治安が悪くなる」——その前提を、現場の人が静かに崩していく
2026-07-06
多文化共生は、きれいごとか、さもなければ衝突だと思っていた
外国人住民が増えるという話題になると、私はつい二つのどちらかで考えていました。多様性は素晴らしいという理想論か、あるいはトラブルが増えて住みにくくなるという不安か。共生という言葉も、現実を知らない人が掲げる建前のように感じていたのです。けれど自分の街でも外国人の姿を見かけるたびに、では実際にどう暮らしを重ねていけばいいのか、その具体像がまるで描けないことに、ずっと落ち着かなさを感じていました。岡崎広樹さんの『外国人集住団地――日本人高齢者と外国人の若者の“ゆるやかな共生”』は、その宙ぶらりんな問いに現場から答えてくれる一冊でした。
岡崎広樹著『外国人集住団地――日本人高齢者と外国人の若者の“ゆるやかな共生”』はこちらから読めます。
半数以上が外国人の団地で、対立ではなく「ゆるやかな共生」が育っていた
本書の舞台は、住民の半数以上が外国人で、かつて「チャイナ団地」とも呼ばれた埼玉県川口市の芝園団地です。著者はそこに自ら住み、自治会の事務局長として日々のトラブルに向き合ってきました。本書が描くのは、ゴミ出しや騒音をめぐる摩擦という現実であり、同時に、無理に分かり合おうとせず適度な距離を保つ「ゆるやかな共生」という落としどころです。学生ボランティアと共に進めた「芝園かけはしプロジェクト」のように、対立でも同化でもない第三の道が具体的に語られます。完全に分かり合うことを目標にすると、達成できないときに失望が残る。けれど、お互いの生活を壊さない最低限のルールを少しずつ共有していくなら、関係は無理なく続いていく。本書が「ゆるやかな」という言葉を選んだ理由が、読み進めるうちに腑に落ちてきます。日本人住民の多くが高齢者で、外国人住民の多くが若い世代だという、年齢の偏りが生む独特の難しさも見えてきます。本書ではさらに、各地の集住地域の取り組みや、日本人同士ですら難しい「共存」の本質にも踏み込んでいます。共生の現実を知りたい方は、ぜひ本書で確かめてみてください。
自分の街で見かける光景の、解像度が上がった
この本を読んでから、近所で外国人の家族を見かけたときの感じ方が変わりました。以前は、増えているな、大丈夫だろうか、と漠然とした不安だけがよぎっていました。今は、この人たちにも生活のリズムや事情があって、ちょっとしたルールの共有がきっと鍵なのだろう、と一歩踏み込んで想像できるようになったのです。共生を、全部わかり合う理想ではなく、距離を測りながら同じ場所で暮らす技術として捉え直せると、街の風景が少しだけ近しいものに見えてきました。たとえば集合住宅の掲示で多言語の案内を見かけたとき、以前なら気にも留めなかったのが、これも小さな橋を架ける工夫なのだと受け取れるようになったのです。不安の正体が分からないままだと身構えてしまう。けれど現場の実像を一つ知るだけで、構えはずいぶんほどけていきます。
知らないままだと、不安か理想論のどちらかに留まっていた
もしこの本を読まなければ、私は外国人住民の問題を、漠然とした不安か空疎な理想論のまま放置していたはずです。著者の岡崎広樹さんは早稲田大学を卒業後、三井物産を経て松下政経塾で学び、芝園団地に移り住んで自治会の運営を担ってきた実践者で、その取り組みは地球市民賞も受賞しています。机上ではなく現場で格闘してきた人だからこそ書ける、共生のリアルがここにあります。多文化共生を遠い話だと思っている方にこそ、読んでほしい一冊です。
岡崎広樹著『外国人集住団地――日本人高齢者と外国人の若者の“ゆるやかな共生”』はこちらから読めます。
内容紹介
かつて「チャイナ団地」と呼ばれ、今も住民の半分以上が外国人の芝園団地(埼玉県川口市)に住み、
数々のトラブルと向き合い見えてきた共生の道筋ーー
急激に進む高齢化と多国籍化の中で誰もが住みやすい環境をつくる!!
【目次】
はじめに かつて「チャイナ団地」と呼ばれた芝園団地
第一章 なぜ芝園団地は外国人住民が激増したのか
「見知らぬ隣人」が「迷惑な隣人」に/外国人住民の増加/母国との生活習慣の違いが生むトラブル/外国人居住者への誹謗中傷 他
第二章 「開かれた自治会構想」と「芝園かけはしプロジェクト」
日本人住民と外国人住民の関係づくりの三つの課題/開かれた自治会構想/学生ボランティア団体「芝園かけはしプロジェクト」発足/SNSによる外国人住民への情報発信 他
第三章 各地の外国人集住地域の「共存」「共生」の取り組み
<UR大島六丁目団地(東京都江東区)>
インド人住民の集住/「日本語ワカリマセン」/インド人目線での効果的な生活トラブル対処法
<県営いちょう上飯田団地(神奈川県横浜市)>
中国残留邦人の帰国とインドシナ難民の受け入れ/団地祭りと国際交流会を合体/団地で生まれ育った「第二世代」
<UR知立団地(愛知県知立市)>
トヨタのお膝元にある外国人集住団地/交代勤務による生活リズムの違いが生む騒音/外国人自治会役員への敵意
<UR笹川団地(三重県四日市市)>
ブラジル人がサッカーW杯優勝で大騒ぎ/1000台以上の路上駐車問題/南米ペルー出身の日系三世から見た笹川団地/多文化共生モデル地区担当コーディネーター 他
第四章 日本人同士でもできていない「共存」「共生」
日本人同士も「見知らぬ隣人」の時代/保育園や除夜の鐘の騒音問題/昔の日本人は本当に「共存」「共生」できていたか/人間関係が希薄化しつつある日本社会 他
第五章 「隣近所の多文化共生」を推進するための提言
居住地の隔離が生む別の問題/総務省「地域における多文化共生」の定義/「共存」するために日本の生活習慣を伝える機会の確保/ど「共生」のための日本人と外国人の「接点」づくり/自治会・町内会の可能性 他
終 章 多文化共生は足元から
母国との違いは氷山の一角でしかない/似ている体験に置き換えることの大切さ/多文化共生は足元から
出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。
書誌情報
- 書名
- 外国人集住団地――日本人高齢者と外国人の若者の“ゆるやかな共生" (扶桑社新書)
- 著者
- 岡﨑 広樹
- レーベル
- 扶桑社新書
- 出版社
- 扶桑社 (発売)
- 発売日
- 2022年7月1日
- ISBN
- 4594090486