新書嫁レビュー
「計算が遅い」は才能の問題ではなかった——暗算が変える、仕事と脳の話
2026-05-25
ずっと「自分は数字に弱い」と思っていた
暗算が得意な人を見るたびに、どこか別の生き物を見ている気持ちになっていた。会議で瞬時に数字を弾き出す同僚、電卓なしで割り勘をさらりと計算する友人。「あれは生まれつきの才能だ」と、いつの間にか決めつけていた。そして自分は計算が苦手な側の人間だ、と。その諦めを抱えたまま生きていると、数字が出てきた瞬間に思考が止まる。資料を見ながら何度も電卓を叩き、それでも自信が持てない。どこかずっと、「頭の回転が遅い人」という烙印を自分に押し続けているような感覚があった。
ところが、小杉拓也著『新書814脳を鍛える! 計算力トレーニング』を読んで、その認識が根底から崩れた。計算が遅いのは才能の問題ではなく、「コツを知らないだけ」だったのだ。
小杉拓也著『新書814脳を鍛える! 計算力トレーニング』はこちらから読めます。
「おみやげ算」という、知らなかった世界
本書が紹介する暗算のテクニックのひとつに「おみやげ算」がある。たとえば17×13という計算を考えてほしい。通常であれば筆算でじっくり解くところだが、この方法では17の一の位「7」を「おみやげ」として13に渡す。すると13が20になり、17からは7を引いて10になる。あとは10×20=200を計算し、そこに7×3=21を足すだけで221という答えが出る。説明を文字で読むと複雑そうに見えるが、実際に手を動かしてみると驚くほどすんなり頭に入ってくる。
さらに本書には、2ケタのたし算で繰り上がりが発生するときの処理法、ひき算の「大きく引いて小さく足す」アプローチなど、学校では誰も教えてくれなかった暗算のコツが体系的にまとめられている。著者によれば、こうした方法をマスターすれば19×19の計算が数秒でできるようになるという。東京大学経済学部を卒業し、20年以上にわたってプロの家庭教師として数多くの生徒を難関校合格へ導いてきた小杉拓也氏だからこそ書ける、実践的な内容だ。本書にはさらに割り算や分数、小数の暗算術、そして計算ミスを防ぐ検算の方法についても丁寧に解説されている。ぜひ本書で確かめてみてください。
電卓を手放した日、世界が少し変わった
本書を読む前の自分は、計算が出てくるたびにスマートフォンの電卓アプリを開くことが習慣になっていた。それ自体は問題のない行動に思えていたが、電卓に頼っている間、数字に対して考える力が少しずつ萎えていたのだと後から気づいた。
本書を読んだ後、まず「大きく引いて小さく足す」ひき算のコツを日常の買い物で試してみた。レジで「1380円です」と言われたとき、2000円を出した場合のお釣りを暗算してみる。2000から1400を引いて600、そこに20を足して620円。慣れると数秒で出てくる。その瞬間、ちょっとした達成感があった。頭が動いている実感、というべき感覚。
仕事の場面でも変化があった。会議中に概算が求められる場面で、以前は「あとで確認します」と逃げていたところが、数字に向き合う怖さが薄れてきた。計算力というのは、数学の才能ではなく習得できる「スキル」なのだと体感した。脳は使えば使うほど鍛えられる。本書の副題にある「脳を鍛える」という言葉は、けっして大げさではなかった。
知らないまま諦めていたことの、もったいなさ
もしこの本に出会わなければ、自分はずっと「計算が苦手な人間」のまま電卓を頼り続けていたと思う。苦手の原因は才能ではなく、方法を知らなかっただけだったのに。
「自分は数字に弱い」という諦めは、実は非常に根強い思い込みだ。学校教育で一度つまずくと、それが固定観念となって何十年も残る。しかし本書が示すのは、コツさえ知れば誰でも計算力は身につくという事実だ。志進ゼミナールを主宰し、算数の苦手な生徒の偏差値を45から65へと引き上げてきた実績を持つ著者の言葉には、説得力がある。
数字を前にした瞬間の「あの止まる感覚」から解放されたいと思う人に、ぜひ手に取ってほしい一冊だ。
小杉拓也著『新書814脳を鍛える! 計算力トレーニング』はこちらから読めます。
内容紹介
《目次》
はじめに
第1章 暗算術を習得して計算に強くなる
この計算を暗算で解けますか?
計算の苦手意識をどう克服するか?
計算力を磨く鍵は「反復」である
脳科学でも反復の重要性が明らかになっている
第2章 かけ算の暗算術 その1─── 九九の拡張
31×31を一瞬で解く(81通り→171通り)
19×19までを暗記しているインド人
インド人の計算力に追いつける「超おみやげ算」(171通り→261通り)
「超おみやげ算」はさらに応用できる(261通り→981通り)
2ケタ×1ケタは「分配法則」で解く(981通り→2601通り)
すべての2ケタ×2ケタの暗算ができる「2本曲線法」(2601通り→9801通り)
「暗算術の選択」が大事
第2章まとめの練習問題
第2章の補足メモ 1 九九の拡張について── 「何通りか」の詳細
第2章の補足メモ 2 おみやげ算で2ケタの2乗計算できることの証明
第2章の補足メモ 3 超おみやげ算が成り立つことの証明
第2章の補足メモ 4 2本曲線法が成り立つことの証明
不思議な数と計算のコラム 1 神秘的な数と計算
第3章 かけ算の暗算術 その2───かけ算のさまざまな暗算術
かっこ暗算術と並べ替える暗算術
「一の位が5の数に偶数をかける」暗算術
11をかける暗算術
第3章まとめの練習問題
不思議な数と計算のコラム 2 カプレカ数「6174」
第4章 たし算と引き算の暗算術
2ケタ+2ケタの暗算術
3ケタ+2ケタ、3ケタ+3ケタの暗算術
4ケタ+4ケタの暗算術
おつり暗算術
「大きく引いて小さくたす」暗算術
第4章まとめの練習問題
不思議な数と計算のコラム 3 カプレカ数「495」
第5章 割り算の暗算術
「かけて割る」暗算術
「割って割る」暗算術
割り切れるか、割り切れないか
第5章まとめの練習問題と応用問題
第5章の補足メモ 倍数判定法が成り立つことの証明
不思議な数と計算のコラム 4 必ず1089になる計算ゲーム
第6章 小数、分数の暗算術と割合計算
小数点のダンス
小数点のダンスを利用した割合計算
分数と小数の変換
分数小数変換を利用した割合計算
第6章まとめの練習問題
不思議な数と計算のコラム 5 驚くべき数「142857」
第7章 検算を極める
素早くできる2つの検算法
検算の切り札 九去法
引き算、かけ算、割り算にも使える九去法
第7章まとめの練習問題
第7章の補足メモ 1 九去法でたし算の検算ができる理由
第7章の補足メモ 2 九去法の弱点が起こる理由
第7章の補足メモ 3 九去法でかけ算の検算ができる理由
不思議な数と計算のコラム 6 必ず元の数に戻る計算ゲーム
最終章 総まとめテスト
おわりに
出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。
書誌情報
- 書名
- 新書814脳を鍛える! 計算力トレーニング (平凡社新書 814)
- 著者
- 小杉 拓也
- レーベル
- 平凡社新書
- 出版社
- 平凡社
- 発売日
- 2016年5月16日
- ISBN
- 4582858147