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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

「計算が遅い」は才能の問題ではなかった——暗算が変える、仕事と脳の話

ずっと「自分は数字に弱い」と思っていた

暗算が得意な人を見るたびに、どこか別の生き物を見ている気持ちになっていた。会議で瞬時に数字を弾き出す同僚、電卓なしで割り勘をさらりと計算する友人。「あれは生まれつきの才能だ」と、いつの間にか決めつけていた。そして自分は計算が苦手な側の人間だ、と。その諦めを抱えたまま生きていると、数字が出てきた瞬間に思考が止まる。資料を見ながら何度も電卓を叩き、それでも自信が持てない。どこかずっと、「頭の回転が遅い人」という烙印を自分に押し続けているような感覚があった。

ところが、小杉拓也著『新書814脳を鍛える! 計算力トレーニング』を読んで、その認識が根底から崩れた。計算が遅いのは才能の問題ではなく、「コツを知らないだけ」だったのだ。

「おみやげ算」という、知らなかった世界

本書が紹介する暗算のテクニックのひとつに「おみやげ算」がある。たとえば17×13という計算を考えてほしい。通常であれば筆算でじっくり解くところだが、この方法では17の一の位「7」を「おみやげ」として13に渡す。すると13が20になり、17からは7を引いて10になる。あとは10×20=200を計算し、そこに7×3=21を足すだけで221という答えが出る。説明を文字で読むと複雑そうに見えるが、実際に手を動かしてみると驚くほどすんなり頭に入ってくる。

さらに本書には、2ケタのたし算で繰り上がりが発生するときの処理法、ひき算の「大きく引いて小さく足す」アプローチなど、学校では誰も教えてくれなかった暗算のコツが体系的にまとめられている。著者によれば、こうした方法をマスターすれば19×19の計算が数秒でできるようになるという。東京大学経済学部を卒業し、20年以上にわたってプロの家庭教師として数多くの生徒を難関校合格へ導いてきた小杉拓也氏だからこそ書ける、実践的な内容だ。本書にはさらに割り算や分数、小数の暗算術、そして計算ミスを防ぐ検算の方法についても丁寧に解説されている。ぜひ本書で確かめてみてください。

電卓を手放した日、世界が少し変わった

本書を読む前の自分は、計算が出てくるたびにスマートフォンの電卓アプリを開くことが習慣になっていた。それ自体は問題のない行動に思えていたが、電卓に頼っている間、数字に対して考える力が少しずつ萎えていたのだと後から気づいた。

本書を読んだ後、まず「大きく引いて小さく足す」ひき算のコツを日常の買い物で試してみた。レジで「1380円です」と言われたとき、2000円を出した場合のお釣りを暗算してみる。2000から1400を引いて600、そこに20を足して620円。慣れると数秒で出てくる。その瞬間、ちょっとした達成感があった。頭が動いている実感、というべき感覚。

仕事の場面でも変化があった。会議中に概算が求められる場面で、以前は「あとで確認します」と逃げていたところが、数字に向き合う怖さが薄れてきた。計算力というのは、数学の才能ではなく習得できる「スキル」なのだと体感した。脳は使えば使うほど鍛えられる。本書の副題にある「脳を鍛える」という言葉は、けっして大げさではなかった。

知らないまま諦めていたことの、もったいなさ

もしこの本に出会わなければ、自分はずっと「計算が苦手な人間」のまま電卓を頼り続けていたと思う。苦手の原因は才能ではなく、方法を知らなかっただけだったのに。

「自分は数字に弱い」という諦めは、実は非常に根強い思い込みだ。学校教育で一度つまずくと、それが固定観念となって何十年も残る。しかし本書が示すのは、コツさえ知れば誰でも計算力は身につくという事実だ。志進ゼミナールを主宰し、算数の苦手な生徒の偏差値を45から65へと引き上げてきた実績を持つ著者の言葉には、説得力がある。

数字を前にした瞬間の「あの止まる感覚」から解放されたいと思う人に、ぜひ手に取ってほしい一冊だ。

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新書814脳を鍛える! 計算力トレーニング (平凡社新書 814) 小杉 拓也 / 平凡社新書

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