新書嫁レビュー
よど号メンバーが見た北朝鮮——20年暮らした日本人だけが書ける記録
2026-05-22
「北朝鮮の実情は、政府発表と限られた報道機関の取材以外にはほぼ知る術がない」とずっと思っていた
北朝鮮について語られる情報は、ほとんどが韓国・日本・欧米の政府機関や報道機関からのものという感覚がありました。ミサイル発射、指導者の動向、脱北者の証言——これらが北朝鮮像の主な構成要素であり、内部にいる外国人が直接書き残した記録は存在しない、あるいは政治宣伝でしかないと受け取っていました。冷戦構造の中で「閉ざされた国」と表現される北朝鮮の実態を、第三者の視点から知る手段は限られていると思っていました。
でも、「実際に長期間、北朝鮮の内側で暮らしている日本人がいる」「彼らが見ている北朝鮮はどんな姿なのか」という問いに、向き合う機会を持てないままでいました。
山中幸男・高沢皓司編『朝鮮民主主義人民共和国——「よど号」グループの朝鮮レポート』を読んで、その問いに正面から答える資料の存在を知りました。
山中幸男・高沢皓司編『朝鮮民主主義人民共和国』はこちらから読めます。
1970年の「よど号」ハイジャック以降、北朝鮮に渡った日本人グループによる内側からの記録
著者らが本書で示す核心は、1970年に「よど号」ハイジャック事件を起こして以降、北朝鮮に長期滞在することになった日本人グループ——通称「よど号グループ」——の側からの北朝鮮レポートです。ジャーナリストの高沢皓司が1990年以降数度にわたって北朝鮮を訪問し、よど号メンバーたちに直接取材を重ねた記録が中心となっています。彼らは北朝鮮を「外から見る訪問者」ではなく、「内側に20年以上住んだ者」として観察を語ります。
特に印象的なのは、政府発表でも報道の常套句でもない、生活レベルでの観察が記されている点です。北朝鮮社会の日常・教育・思想統制の現実・指導部に対する内部の見方——彼ら自身が日本赤軍系の革命志向を抱いて渡った当事者であるがゆえに、北朝鮮の体制を擁護する側面も含めて、独特の距離感で語られます。それゆえに、外部からの一方的な批判でも内部からの単純な賛美でもない、当事者の生の声が交差する記録になっています。本書にはさらに、よど号事件そのものの経緯と、その後のグループの動向、彼らから見た日朝関係の問題が詳しく書かれています。ぜひ本書でその全貌を確かめてみてください。
「閉ざされた国」のイメージが、複層的な現実として見えてきた
読む前と後で、北朝鮮報道への向き合い方が変わりました。以前は政府発表とニュースの断片で北朝鮮像を組み立てていました。でも今は、「外部からの観察」と「内部からの記録」がそれぞれ何を捉え、何を捉え損ねるかを意識しながら情報を読むようになりました。
具体的には、北朝鮮の脱北者証言・政府発表・第三国の研究者の論考を読むとき、「どの位置から見た情報なのか」を問うようになりました。よど号グループという特異な立場——日本人でありながら北朝鮮の体制側に同化した人々——の証言は、どの一次資料にも還元できない独自性を持っており、そういう資料が存在することを知るだけで、北朝鮮を語る言葉の幅が広がります。「閉ざされた国」というイメージを単純化せず、複数の証言の交差点として捉える視点が生まれました。
北朝鮮取材のジャーナリストが、よど号グループの長期密着取材から内側のレポートを編集した
高沢皓司はジャーナリストとして1990年代以降、北朝鮮および日朝関係問題、特によど号グループや日本人拉致問題に関する取材を継続してきた著者です。直接対話と現地取材という困難な手段で資料を積み上げてきた著者だからこそ、本書では政府文書や公式報道では到達できない、当事者の声を起点にした記録が成立しています。
この本を読まなければ、北朝鮮を政府発表と外部報道だけで理解したまま、よど号グループの内側からの記録が持つ独自の重みと向き合う機会を持てないままでいたでしょう。
山中幸男・高沢皓司編『朝鮮民主主義人民共和国』はこちらから読めます。
内容紹介
「北朝鮮」制裁に真向から反論する。1970年3月、「よど号」ハイ・ジャック事件で朝鮮に渡った著者たちによる「真実の北朝鮮レポート」。
出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。
書誌情報
- 書名
- 朝鮮民主主義人民共和国 (三一新書 1092)
- 著者
- 山中 幸男 / 高沢 皓司
- レーベル
- 三一新書
- 出版社
- 三一書房
- 発売日
- 1994年9月15日
- ISBN
- 4380940217