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証言 治安維持法: 「検挙者10万人の記録」が明かす真実 (NHK出版新書 607)

NHK「ETV特集」取材班荻野 富士夫

NHK出版新書 / NHK出版

2019年11月1日発売

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新書嫁レビュー

10万人検挙、その大半は『普通の市民』だった——治安維持法20年の運用記録

2026-05-21

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「治安維持法は共産主義者を取り締まるための法律で、一般市民とは無関係だった」とずっと思っていた

戦前の治安維持法といえば、「共産党を弾圧した法律」「思想犯を取り締まる法律」——歴史教科書で習った断片的な知識で、自分とは別世界の話だと感じていました。「過激な思想を持った特定の人々」が対象だったのであり、ふつうに暮らしていた人々には関係のない出来事だった、という整理で済ませていました。だから現代の話としても、「あんなことは特殊な時代の特殊な人々の話」と距離を置いて読んでしまっていました。

でも、治安維持法による検挙者数が「10万人」という規模に達していたという数字に触れたとき、「それだけの人数が共産主義者だったのか?」という当然の疑問が浮かびました。10万人もの人々が、本当に全員過激な思想活動家だったのか——その疑問への答えを持てないままでいました。

NHK「ETV特集」取材班・荻野富士夫著『証言 治安維持法』を読んで、その疑問への答えがはっきりしました。

NHK「ETV特集」取材班・荻野富士夫著『証言 治安維持法』はこちらから読めます。

治安維持法は20年間で対象を拡大し続け、青年教師・少女・絵画教師——ふつうの市民を次々に検挙していった

著者らが本書で示す核心は、治安維持法が1925年の制定時には「国体の変革」「私有財産制度の否認」を目的とする結社(主に共産党)を対象としていたものの、終戦までの20年間に運用対象が際限なく拡大され、最終的には絵画を教えていた地方の教師や、貧困や戦争に違和感を語った市民まで「思想犯」として検挙する装置になっていたという事実です。NHK取材班が公文書から抽出した10万人の検挙者データと、生存者・遺族の証言が、その運用の暴走を具体的に示します。

特に印象的なのは、「生活図画教育事件」——子どもたちに身の回りの生活を絵に描かせていた地方の青年教師たちが、「貧困を描かせるのは社会主義的扇動だ」として一斉検挙された事件です。共産党とも組織とも無関係の、純粋に教育者として子どもと向き合っていた人々が、特高警察によって拘束・拷問された。一度標的にされれば、自白するまで拷問は止まらず、家族の生活も崩壊する。「ふつうの暮らし」と「治安維持法による検挙」の距離が、20年の運用の中でほとんどゼロになっていきました。植民地(朝鮮・台湾)での運用も、本土以上に暴力的に展開されました。本書にはさらに、拷問された少女の証言、転向させられた人々のその後、終戦と廃止後の沈黙、戦後への影響が詳しく描かれています。ぜひ本書でその全貌を確かめてみてください。

「自分とは関係ない」という距離が崩れ、現代の法と権力への警戒が生まれた

読む前と後で、戦前史への向き合い方が変わりました。以前は治安維持法を「特殊な時代の特殊な法律」として遠ざけていました。でも今は、「法律はその文言だけでなく、運用によって対象が際限なく拡大しうる」「権力に検挙する側のフリーハンドを与えれば、最終的にはふつうの市民が標的になる」という認識を持つようになりました。

具体的には、現代の「治安」「公共の秩序」を理由とする法案が議論されるとき、その文言だけでなく「運用が拡大したらどこまで届くか」を問う視点が生まれました。テロ等準備罪・スパイ防止法案などをめぐる議論で、戦前の経験が単なる比喩ではなく、実証された歴史的教訓として参照される意味が分かるようになりました。「自由はこうして奪われた」——番組の副題が示す通り、自由は一気に失われるのではなく、20年かけてじわじわと侵食されていく、その実例を具体的な顔と証言とともに知ることができました。

小樽商科大学名誉教授・治安維持法研究の第一人者と、NHK ETV特集の取材力が結びついた

荻野富士夫(1953年生まれ)は小樽商科大学名誉教授として治安維持法研究を専門に続けてきた歴史家で、公文書資料の徹底的な分析を長年続けてきた研究者です。NHK「ETV特集」取材班との共同作業として、放送番組「自由はこうして奪われた——治安維持法 10万人の記録」のための一次資料調査と生存者証言を基に、本書は構成されています。学術研究と映像取材という二つの方法論が結びついた稀有な記録です。

この本を読まなければ、治安維持法を「共産主義者だけを取り締まった特殊な法律」と理解したまま、ふつうの市民10万人が検挙された運用の暴走と向き合う機会を持てないままでいたでしょう。

NHK「ETV特集」取材班・荻野富士夫著『証言 治安維持法』はこちらから読めます。

内容紹介

自由はこうして奪われたーー。
体験者の生々しい肉声から、20年におよぶ運用実態に迫る。
地域・年代別に検挙者数の推移をまとめた「ETV特集」が書籍化!

大正末期の1925年に制定された治安維持法。当初は「国体の変革」や「私有財産制度の否認」を目的とする結社ー主に共産党を取締り対象としていたが、終戦の年に廃止されるまで運用対象は一般の市民にまで拡大された。
ふつうに暮らすふつうの人々が次々に検挙されたのはなぜか。当事者や遺族の生々しい証言と、公文書に記載された検挙者数のデータから、治安維持法が運用された20年間を検証する。
NHK ETV特集「自由はこうして奪われた〜治安維持法 10万人の記録〜」の書籍化。

まず序章で、現在も声を上げ続けている検挙者の証言を入り口に、治安維持法がどのような目的で作られたのか、成立の経緯を概観する。途中、歴史的な記述が続く部分は、同法の成り立ちを理解するために必要と考え、やや詳しく書いたが、証言を中心に読んでいきたい読者は第一章から読み進め、必要に応じて序章に戻っていただいてもいいだろう。
 第一章から第五章では、法律が運用された二十年間の検挙者数のデータを分析して特徴的な変化を示す時期や地域を各章ごとに絞り込み、当時の出来事を、該当する証言者のエピソードを通して描いていく。同時に、証言者たちがなぜ検挙されたのか、時代的な背景や法律の運用状況を専門家の見解を交えながら検証する。
 第六章では、治安維持法をはじめとする戦前・戦中の治安体制と戦後の治安体制の連続性について検証し、終章では本書に登場した証言者たちの戦後の歩みを見ていく。
 書籍化にあたり、番組内で紹介することができなかった当事者の証言やエピソードをできるだけ織り込むよう心がけた。
 戦後七十四年が経過したいま、当時を知る方々から話を聞くことはますます難しくなっている。しかし時代が遠ざかれば遠ざかるほど、実際に出来事を体験した人の生身の感覚こそが重要性を増していくのではないだろうか。さらに強調しておきたいのは、今回取材に応じてくれた証言者の誰もが、治安維持法は遠い昔の無関係な法律ではなく、その時代を知らない私たちにも重要な示唆を与えるものと考えていたことだ。
 本書がかつて存在した治安維持法と、この法律によって人生を変えられた多くの人の声の一端を伝え、これからの社会を考えるための一助となることを願っている。(「はじめに」より)
序 章 声を上げ続ける検挙者たち
第一章 拷問された少女と一人の特高ーー三・一五事件
第二章 ある青年教師の追放ーー二・四事件
第三章 転向させられた人々
第四章 言葉を守ろうとした兄ーー植民地での運用実態
第五章 絵を描いて有罪となった学生ーー生活図画教育事件
第六章 終戦 治安維持法はなくなったのか
終 章 それぞれの戦後

出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。

書誌情報

書名
証言 治安維持法: 「検挙者10万人の記録」が明かす真実 (NHK出版新書 607)
著者
NHK「ETV特集」取材班 / 荻野 富士夫
レーベル
NHK出版新書
出版社
NHK出版
発売日
2019年11月1日
ISBN
4140886072