新書嫁レビュー
「治ったら元の職場に戻る」——その当たり前を、この本は静かに揺さぶってくる
2026-05-29
「うつは治して、また同じ場所に戻るもの」だと思っていた
うつで休んだら、しっかり治して、また元の職場に戻る。それが回復のゴールだと、私はずっと信じていました。早く戻らなければ、休んでいる自分は遅れてしまう——そんな焦りを、休職中の多くの人が抱えているはずです。でも、その「戻ること=正解」という前提を握りしめたまま過ごしていると、復職が近づくほどなぜか息苦しくなる、あの説明のつかない違和感がつきまといます。本書を読んで、私はその違和感の正体に初めて触れました。
うつ・気分障害協会著『「うつ」からの社会復帰ガイド』はこちらから読めます。
「復職するだけが人生か」という一文に、立ち止まった
本書には「復職するだけが人生か」「職場はリハビリ施設ではない」という、復帰を急ぐ人にとってはひやりとするような言葉が出てきます。最初に読んだ人の多くが戸惑うようで、実際に読者の感想でも「復職を控えて読むには重く感じた」という声が見られます。けれどこの問いは、突き放すためのものではありません。本書は、うつ・気分障害協会(MDA-JAPAN)が運営してきた復職支援プログラム「Back To Work」をもとに編まれており、復職を「ゴール」ではなく「キャリアを立て直していく途中の一歩」として捉え直す視点を提示します。本書は六つのセッションで構成され、うつ病とはどのような病気かという基礎から、再発予防のための症状の自己管理、相談窓口という社会資源の使い方、そして家族が「うつ病」になったときに支える側が燃え尽きないための心構えまで、当事者・家族・同僚それぞれの立場から具体的に語られています。巻末には職場復帰への具体的なステップや、一週間の行動と気分を記録する記入シートの書式まで添えられていて、読むだけでなく実際に使える作りになっています。なぜ「戻ること」だけを目標にすると苦しくなるのか——その続きは、ぜひ本書で確かめてみてください。
「戻れない自分」を責める回路が、ひとつ消えた
この視点に触れる前の私は、復帰できない自分を「弱いから」「努力が足りないから」と裁いていました。朝起きて気分が重いと、それだけで一日の自分に失格の烙印を押し、夜には「今日も前に進めなかった」と布団の中で天井をにらんでいたのです。けれど「復職はキャリアを回復させていく長い道のりの一部」だと知ってから、毎朝の気分の波を、合否ではなく天気のように眺められるようになりました。雨の日があるのは当たり前で、それは自分の価値とは関係がない。本書にある一週間の行動と気分の記入シートを試してみると、調子の悪い日も「データの一点」として淡々と記録できます。記録がたまるにつれ、悪い日のあとには必ず持ち直す日が来るというリズムも見えてきました。自分を責める代わりに、自分を観察する側に回れたこの変化は、想像以上に呼吸を楽にしてくれました。
知らないままだったら、私はずっと自分を責め続けていた
この本を読まなければ、私は「早く元通りに戻れない自分」を責め続けたまま、回復をさらに遠ざけていたかもしれません。本書は当事者・家族・支援者が知見を持ち寄って編まれており、うつと長く向き合ってきた人々の経験が土台にあるからこそ、きれいごとではない言葉が並んでいます。同じように「治して戻らなければ」と自分を追い込んでいる人にこそ、いちど立ち止まってほしい一冊です。
うつ・気分障害協会著『「うつ」からの社会復帰ガイド』はこちらから読めます。
内容紹介
サラリーマンが「うつ病」で会社を休むことになった。治療の中心は服薬と十分な休養。症状を自己管理するための具体的な方法を紹介。復職のために必要なステップとは?家族が燃え尽きないために。職場に「うつ病」について知ってもらおう。
出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。
書誌情報
- 書名
- 「うつ」からの社会復帰ガイド (岩波アクティブ新書 115)
- 著者
- うつ 気分障害協会
- レーベル
- 岩波アクティブ新書
- 出版社
- 岩波書店
- 発売日
- 2004年6月1日
- ISBN
- 4007001154