新書嫁レビュー
明治の洋館は「本物の西洋建築」ではなく、地球を一周してきた建築が日本に変容した姿だった
2026-05-08
「明治の洋風建築は西洋の本物を日本に持ち込んだものだ」とずっと思っていた
明治時代に建てられた洋館や近代建築は、西洋の建築様式をそのまま輸入したものだと思っていました。日本が近代化のために「本物」を取り入れ、それを模倣したのが明治建築——そういう理解をしていました。だから洋館を見るとき「日本のものではない」という感覚がどこかにあり、その建物の複雑な成り立ちを考えたことがありませんでした。
でも、横浜の馬車道や長崎のグラバー邸を見たとき、どこか「純粋な西洋建築」でも「純粋な和風建築」でもない何かを感じていました。その中途半端さのような印象の正体が、うまく言葉にならないままでいました。
藤森照信著『日本の近代建築 上』を読んで、その正体がようやくわかりました。
藤森照信著『日本の近代建築 上』はこちらから読めます。
西洋建築は地球を東回り・西回りで運ばれ、日本の土地で変容した
本書が示す視点は独自です。西洋建築が日本に届いたのは、地球を東回り(アジア経由で長崎・神戸・横浜へ)と西回り(アメリカ経由で北海道へ)の二つのルートを通じてでした。その旅の過程で、建築は各地の気候・素材・職人の手を経て少しずつ変容し、日本に到着した時点ですでに「変容した西洋建築」でした。
御雇建築家(お雇い外国人建築家)が設計した本格建築から始まり、やがて日本人建築家が生まれるまでの過程を、著者は「和洋折衷」という言葉で括らずに丁寧に描き分けます。玄関だけ洋風、屋根は和風、柱は西洋式——この「折衷」は模倣の失敗ではなく、異質な様式が日本の土地と生活に馴染もうとした積極的な試みだったのです。本書にはさらに、日本人建築家の第一世代がどう育ち、何を志したかが克明に描かれます。ぜひ本書でその全貌を確かめてみてください。
街の古い建物を見るときの「解像度」が上がった
読む前と後で、古い建物を見るときの視点が変わりました。以前は「西洋風か和風か」という二択で建物を見ていました。でも今は、その建物がどんな歴史的文脈の中で誕生し、誰が設計し、何を目指したのかを問うようになりました。
具体的には、近代建築が残る街を歩くとき、建物の外観だけでなく「誰がこれを建て、そこに何を込めようとしたのか」という問いが生まれるようになりました。和と洋が混在するような建物が、模倣の失敗ではなく積極的な創造だったという視点を持てたとき、街のあちこちに残る古い建物が、それぞれに固有の物語を持つものとして見えてくるようになりました。国家が「近代化」という大きな力で社会を変えようとした時代に、建築がどんな役割を担ったかを考えると、建物の見え方がまるで変わります。古い洋館の前で立ち止まる時間が、以前より長くなりました。
近代建築史研究の第一人者が、物語として語る日本建築の150年
藤森照信(1946-)は東京大学名誉教授で、日本近代建築史を専門とする建築史家です。研究者でありながら自ら「縄文建築」と呼ぶユニークな建築作品も手がけ、国内外で高い評価を得ています。難解になりがちな建築史を、人物と物語を中心に読みやすく語る著者の文体は、専門知識のない読者にも建築の世界を生き生きと伝えます。
この本を読まなければ、明治の洋館を「本物でない模倣品」として眺め続け、地球を一周して変容してきた建築の豊かな歴史を見落としていたでしょう。
藤森照信著『日本の近代建築 上』はこちらから読めます。
内容紹介
開国とともに西洋館がやってきた。地球を東回りにアジアを経て長崎・神戸・横浜へ。西回りにアメリカを経て北海道へ。こうして日本の近代建築は始まり、明治政府の近代化政策とともに数多くの作品が造られてゆく。上巻では、幕末・居留地の西洋館から和洋折衷の洋館、御雇建築家による本格建築を経て、日本人建築家が誕生するまでを描く。
出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。
書誌情報
- 書名
- 日本の近代建築 上: 幕末・明治篇 (岩波新書 新赤版 308)
- 著者
- 藤森 照信
- レーベル
- 岩波新書 新赤版
- 出版社
- 岩波書店
- 発売日
- 1993年10月1日
- ISBN
- 4004303087