新書嫁レビュー
「経済学は数字と論理の客観的な科学だ」という思い込みを、日本最高の経済学者が崩した
2026-05-06
「経済学は感情を排した、論理と数字の客観的な科学だ」とずっと思っていた
経済学という学問は、数式とモデルと統計データで動く客観的な科学だと思っていました。感情や価値観を持ち込むのはむしろ禁物で、冷静に数字を見る人間こそが正しい経済政策を導けると信じていました。だから「倫理的な経済学」などという言葉は、矛盾しているように聞こえた。感情と科学は相容れないはずだと。
でも、経済学の「正しい」政策が社会に貧困や格差を広げていく現実を見るたびに、どこかしっくりこない感覚がありました。数字は正しいはずなのに、なぜ人が苦しむのか。理論は整合的なのに、なぜ世界は良くならないのか。その問いに対する答えを、長い間どこにも見つけられませんでした。
宇沢弘文著『経済学の考え方』を読んで、その問いの立て方自体が変わりました。
宇沢弘文著『経済学の考え方』はこちらから読めます。
経済学は「科学」であると同時に「芸術」であり、倫理なき経済学は暗黒だった
著者は本書の冒頭で宣言します。経済学は科学でもありながら芸術でもあり、高度な倫理と正義心が求められる学問だと。この一行で、「数字とモデルの客観科学」という私の経済学像は崩れました。
本書はアダム・スミスからケインズ、そして20世紀後半のマネタリズムや合理的期待形成学派まで、経済学の思想の流れを一冊で辿ります。著者が特に痛烈に批判するのが、マネタリズムや市場原理主義の潮流です。これらを著者は「暗黒時代」と呼び、反社会的・反倫理的と断言します。市場に任せれば最適解が生まれるという理論が、現実には多くの人を排除していった歴史を、著者は直視します。
そして著者が提示するキーワードが「社会的共通資本」です。教育・医療・自然環境などは市場に委ねてはならない、社会全体で守るべき共通の資本だという考え方です。本書にはさらに、ヴェブレンやジョーン・ロビンソンなど、倫理を持って経済学を問い直した人物たちの思想も詳細に描かれています。ぜひ本書でその全貌を確かめてみてください。
「正しい経済政策」という言葉を無条件に信じなくなった
読む前と後で、経済ニュースの受け取り方が変わりました。以前は「エコノミストが言っている」という権威に安心感を覚えていました。でも今は、その経済学がどんな価値観の上に立っているのかを問うようになりました。
具体的には、「効率化」「競争促進」「規制緩和」という言葉が出るたびに、誰の効率か、誰のための競争かを考えるようになりました。倫理なき経済学が生み出す政策は、数字の上では「最適」でも、現実には弱い立場の人を切り捨てていることがある。宇沢が「暗黒時代」と呼んだのは、まさにそういう経済学が席巻した時代です。その警告を自分の思考のフィルターに加えることで、経済の話を聞くときの解像度が上がりました。
「倫理なき経済学は社会を壊す」と正面から言える学者がいた
宇沢弘文(1928-2014)は、シカゴ大学経済学部教授として世界最前線で活躍した後、社会的問題への取り組みのために帰国した日本を代表する経済学者です。公害・環境問題・教育の市場化に正面から反対し続け、「社会的共通資本」という理論体系を築きました。数理経済学の世界的権威でありながら、倫理と正義を経済学の核心に置いたその姿勢は、世界中の経済学者から尊敬を集めています。
この本を読まなければ、「経済学は客観的な科学」という思い込みのまま、価値観の入った政策論争を科学の言葉で包んだものを、ただ信じ続けていたでしょう。
宇沢弘文著『経済学の考え方』はこちらから読めます。
内容紹介
プロローグ
1 経済学はどのような性格をもった学問か
2 アダム・スミスの『国富論』
3 リカードからマルクスへ
4 近代経済学の誕生 ──ワルラスの一般均衡理論──
5 ソースティン・ヴェブレン ──新古典派理論の批判者──
6 ケインズ経済学
7 戦後の経済学
8 ジョーン・ロビンソンの経済学
9 反ケインズ経済学の流行
10 現代経済学の展開
エピローグ
あとがき
出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。
書誌情報
- 書名
- 経済学の考え方 (岩波新書 新赤版 53)
- 著者
- 宇沢 弘文
- レーベル
- 岩波新書 新赤版
- 出版社
- 岩波書店
- 発売日
- 1989年1月20日
- ISBN
- 4004300533