新書嫁レビュー
「インドは貧しい国だ」と思っていた。1956年、ある作家がそこで考えたこと
2026-04-26
インドとは「貧しくて混沌とした国」だと思っていた
「インドは発展途上国で、路上で物乞いをしている人がたくさんいて、カースト制度が残っている」——そういうイメージでインドを理解していました。もちろんITで世界と戦っているとか、人口で中国を抜いたとかは知っていた。でも「インドとはどういう場所か」という問いを、自分の頭で考えたことはありませんでした。1956年に3ヶ月間インドに滞在した日本人作家が書いたこの本の、「インドは貧しい国ではない」という一節が、その思い込みを最初に揺さぶりました。
堀田善衞著『インドで考えたこと』はこちらから読めます。
「インドは貧しい国ではない」——その言葉の意味
堀田善衞がインドを訪れたのは1956年、第1回アジア作家会議への参加のためでした。そこで出会ったのは、独立直後のインドが持つ巨大なパワーと、何千年もの文明の重さを同時に担う知識人たちでした。
「インドは貧しい国ではない」という言葉が意味するのは、物質的な豊かさの話ではありません。4000年以上の文明の歴史、仏教・ヒンドゥー教・イスラム教・キリスト教がすべて根を張った社会、あらゆる外来文化を受け入れ消化してきた思想的厚み——それを「GDPが低いから貧しい」という物差しで測ることの誤りを、堀田は突きつけます。そして同時に問われるのは「1956年の日本とは何か」です。文明の長さで言えば薄く、戦争と占領で継続性を傷つけられた日本の知識人として、インドの深さに向き合ったとき何が見えるか——この問いは今日にも届きます。ぜひ本書で確かめてみてください。
「豊かさ」の基準が変わった
この本を読んでから、「発展途上国」という言葉に引っかかりを感じるようになりました。何を「発達した」状態として見なすかは、誰が設定した基準かによります。物質的な豊かさ・平均寿命・識字率——それらが重要であることは間違いないが、それだけが「豊かさ」の全てではない。何千年もかけて育まれた哲学・宗教・芸術・倫理の厚みは、GDPの数字には現れません。
日本は経済的に豊かになった。しかし「文明として何を持っているか」という問いに、1956年の堀田が感じた不安は今も続いているかもしれない。「インドで考えたこと」は、インドについての本であり同時に日本について考える本でした。
谷崎潤一郎賞を受賞した日本を代表する文明論者
堀田善衞(1918〜1998年)は富山県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、作家として活躍し「広場の孤独」(1951年)で芥川賞、晩年の「ミシェル城館の人」で谷崎潤一郎賞を受賞しました。第二次世界大戦中の上海体験、アジアへの深い関心を持ち、日本とアジア・ヨーロッパの文明を問い続けた知識人として知られます。本書は1957年の刊行で、戦後日本の知識人が初めてアジアに向き合った記録としての意義も持っています。
この本を読まなければ、インドを「貧しい国」という単純な図式でしか見られなかったはずです。別の文明の尺度で自分の立っている場所を測り直す体験が、この本にあります。
堀田善衞著『インドで考えたこと』、購入はこちらから。
書誌情報
- 書名
- インドで考えたこと (岩波新書)
- 著者
- 堀田 善衞
- レーベル
- 岩波新書
- 出版社
- 岩波書店
- 発売日
- 1957年12月19日
- ISBN
- 4004150310