新書嫁レビュー
なぜ理想を掲げた若者たちは、仲間を手にかけたのか
2026-08-13
学生運動は「熱い青春の物語」だと思っていた
ヘルメットと角材、立てこもったキャンパス。一九六〇年代後半の学生運動を、私は長らく「理想に燃えた若者たちの、少しまぶしい青春の一場面」として思い描いていました。体制に逆らい、未来を信じて声を上げた人たち。そう整理しておけば、わかりやすくて気持ちがいい。けれどその整理には、いつもどこか据わりの悪さがありました。だってその運動は、なぜあれほど唐突に、社会から見放されるように消えていったのか。理想に燃えていたなら、なぜ続かなかったのか。その問いに、私はずっと答えを持てずにいました。池上彰さんと佐藤優さんの対談『激動 日本左翼史 学生運動と過激派 一九六〇−一九七二』は、その据わりの悪さの正体を、静かに、しかし容赦なく解きほぐしてくれます。
池上彰著・佐藤優著『激動 日本左翼史 学生運動と過激派 一九六〇−一九七二』はこちらから読めます。
「敵」が外にいなくなったとき、刃は内側を向いた
本書がたどるのは、六〇年安保から内ゲバ、そして一九七二年のあさま山荘事件へと至る十二年間です。私が衝撃を受けたのは、連合赤軍が群馬の山岳ベースで起こした事件の記述でした。運動の挫折と孤立のなかで、彼らは「総括」と称して仲間への糾弾を繰り返し、二十九人のうち十二人もの同志が命を落としたとされています。外にいたはずの「敵」が見えなくなったとき、純化を求める論理の刃は、最も身近な仲間へと向かっていった。そしてこの事件が広く報じられたことで、それまで運動に同情的だった世間の空気が、幻滅へと一気に反転したと指摘されています。池上さんはここで、理想そのものではなく、理想を扱う人間の組織がどう壊れていくのかという、もっと普遍的な問いを立てます。本書ではさらに、六〇年安保をめぐる社会党と共産党の対立、新左翼の理論家たちが何を信じていたのか、そして運動がどのようにセクトへと枝分かれしていったのかについても踏み込んで語られており、なぜ運動が分裂を重ねたのかが立体的に見えてきます。一面的な善悪では割り切れない人間の集団の力学を、ぜひ本書で確かめてみてください。
「あの時代」を見る目が、今の自分の足元に返ってくる
この本を読む前、私にとって学生運動は完全に「遠い昔の他人事」でした。けれど読み終えたあと、ニュースで何かの集団や運動が内部分裂していくのを見るたびに、あの山岳ベースの論理がよぎるようになりました。正しさを突き詰めた集団が、なぜ最も近い人を排除し始めるのか。それは六〇年代特有の出来事ではなく、職場でも、ネット上の議論でも、形を変えて起こりうることだと感じるようになったのです。たとえば些細な意見の違いで仲間が敵に変わっていく様子を見たとき、以前なら単なる人間関係のもつれとしか思わなかった場面に、純化の論理が働いていないかと立ち止まるようになりました。歴史を「他人事の物語」ではなく「自分の足元を照らす鏡」として読めるようになった。この変化は、私の日々のものの見方を確かに深くしてくれました。
知らないままなら、私はあの時代を誤解し続けていた
あの運動を青春の美談として片付けていたら、私はその先にある一番大事な教訓を、永遠に取りこぼしていたはずです。池上彰さんは長年ニュース解説の第一人者として複雑な事象を噛み砕いてきた書き手であり、佐藤優さんは外交の最前線を知る作家として組織と思想に通じています。立場の異なる二人が対話を重ねるからこそ、一方的な断罪にも美化にも傾かない、奥行きのある左翼史が描けるのだと感じました。自分はあの時代を本当に理解していただろうか。そう思った方にこそ、手に取ってほしい一冊です。
池上彰著・佐藤優著『激動 日本左翼史 学生運動と過激派 一九六〇−一九七二』はこちらから読めます。
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内容紹介
高揚する学生運動、泥沼化する内ゲバ、あさま山荘事件の衝撃。
左翼の掲げた理想はなぜ「過激化」するのか?
戦後左派の「失敗の本質」。
「この時代は、左翼運動が最高潮に達しながらその後急速な凋落を辿っていった時代にあたり、左翼史全体を通じても特に歴史の教訓に満ちた時代です。まさに、この時代は「左翼史の核心」と言えるでしょう。」(佐藤優)
「なぜ左翼は失敗したのか。この本では一貫してこの問いに立ち返ることになるでしょう。そして、左翼の顛末を歴史の教訓として総括することは、最も学生運動が盛り上がっていた1968年に大学生になった私の使命でもあります。」(池上彰)
自分の命を投げ出しても構わない。他人を殺すことも躊躇しない。
これが「思想の力」である。
いま、戦後史から学ぶべき歴史の教訓とは。
【本書の目次】
序章 「60年代」前史
第1章 60年安保と社会党・共産党の対立(1960〜1965年)
第2章 学生運動の高揚(1965〜1969年)
第3章 新左翼の理論家たち
第4章 過激化する新左翼(1970年〜)
【本書の内容】
・60年安保は「反米闘争」か「反岸闘争」か
・「敵の出方」論をめぐる共産党・志位和夫の嘘
・「反スターリニズム」に賭けた新左翼の精神
・「反米従属」と「愛国」に舵を切る60年代共産党
・新左翼は「リアリズムを欠いたロマン主義」
・「第一次羽田事件」山崎博昭の死が時代を動かす
・戦う意志を貫き、代議制を捨てた「全共闘」
・行動の「中核派」、理論の「革マル派」
・「ニセ左翼」vs.「権力の泳がせ論」
・本屋で「火炎瓶製造マニュアル」が買えた時代
・「日大アウシュヴィッツ」という揶揄の声
・池上彰青年を「オルグ」しようとしたセクト
・卓越した思想家・黒田寛一と国鉄・松崎明の関係
・沖縄は「奪還」すべきか、「解放」すべきか
・日本人を「総ノンポリ化」した新左翼運動
・左翼は「人間の不完全さ」を自覚せよ ……ほか
序章 「60年代」前史
第1章 60年安保と社会党・共産党の対立(1960〜1965年)
第2章 学生運動の高揚(1965〜1969年)
第3章 新左翼の理論家たち
第4章 過激化する新左翼(1970年〜)
出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。
書誌情報
- 書名
- 激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972 (講談社現代新書)
- 著者
- 池上彰 / 佐藤 優
- レーベル
- 講談社現代新書
- 出版社
- 講談社
- 発売日
- 2021年12月15日
- ISBN
- 9784065265697