新書嫁レビュー
羽生結弦を育てたコーチの「道程」が、才能論の常識を覆していた
2026-08-02
一流アスリートの圧倒的な成功は、本人の才能と努力によるものだと思っていた
羽生結弦のような世界的なアスリートの成功は、圧倒的な才能と人一倍の努力の組み合わせによるものであって、その背後にいるコーチの役割は「才能をうまく引き出す環境を整えた」程度のものだ——そんな認識がありました。アスリートの成功はアスリート本人の話だという見方が当然のものとしてあったのです。
でもこの本を読んで、羽生結弦という唯一無二のアスリートを育てたコーチ・都築章一郎の人生と指導哲学が、才能論とコーチング論の常識に根本的な問いを投げかけていることがわかりました。
この本が、才能とコーチングへの見方を変えてくれました。
宇都宮直子著『羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程』はこちらから読めます。
「才能を引き出す」のではなく「才能が育つ場を作る」という発想
本書は、フィギュアスケートコーチ・都築章一郎の長い人生と深い指導哲学を丁寧に追った集英社新書の一冊です。羽生結弦の幼少期の指導者として知られる都築章一郎が、どのような信念と方法論で選手を育ててきたかが丁寧に描かれています。
都築章一郎が体現してきたコーチングの哲学の核心は、「才能がある子を見つけてそれを磨く」ではなく「どんな子でも自分の才能を発揮できる環境と関係性を作る」という発想にあります。才能は生まれながらに決まっているのではなく、適切な関係・環境・タイミングの中で開花するものだという確信が、長年の指導経験から生まれています。
羽生結弦がジュニア時代に都築コーチのもとで何を得たか——技術だけでなく、失敗を恐れずに挑戦する姿勢、自分の演技に対する徹底的な誠実さ、そして練習を深く愛する姿勢——こういった要素が、後の羽生結弦の基盤を作りました。都築コーチが羽生に対して何を見て、何を信じ、どのような関わり方をしてきたか——その詳細が、一人の選手がどのように世界トップに達するかを語る上で欠かせない物語です。コーチとの関係性の質が、アスリートの成長の質を決めるという現実が浮かび上がります。本書にはさらに、都築章一郎が指導してきた他の選手たちとの関係、そしてコーチとしての喜びと苦悩についても詳しく語られています。ぜひ本書で確かめてみてください。
「才能を育てる」の本質が変わった
この本を読んでから、「この人には才能がある」という見方の先に「その才能がどんな関係性と環境の中で育ってきたのか」という問いを立てるようになりました。
才能は「持って生まれるもの」ですが、開花させるかどうかは「出会いと環境」によって大きく変わります。優れたコーチが何をしているかを知ることは、教育・育成・人と人の関係性の本質への理解を深めてくれます。世界を驚かせた羽生結弦の輝きの裏にある、都築章一郎の静かで深い仕事と信念が、この本からリアルに伝わってきます。
フィギュアスケートコーチが歩んできた「育てることへの道」
羽生結弦をはじめ多くの選手を育ててきたコーチ・都築章一郎の人生と指導哲学を描いた一冊です。才能育成の現場での実際の知恵が、スポーツを超えた普遍的な示唆として届きます。
この本を読まなければ、一流アスリートの成功を「本人の才能と努力」という単純な図式で捉えたまま、コーチと選手の関係性が才能の開花にどれほど深く関わるかを知らずにいたと思います。
宇都宮直子著『羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程』はこちらから読めます。
内容紹介
オリンピック連覇を果たした羽生結弦。
幼き日の羽生を見出し、徹底的に基礎を教え続けたコーチが都築章一郎だ。
五〇年以上にわたり日本フィギュアスケートの発展に貢献してきた名伯楽は、現在も精力的に多くのスケーターに指導を続けている。
都築が若き日に、フィギュアスケートの手本としたのが芸術大国ロシアだった。
私財をなげうち、日本のフィギュア界の礎のために世界を奔走してきた生き様、そして知られざる日露文化交流史をも描く!
【目次】
序章エドゥアルド・アクショーノフは語る
第一章 都築章一郎は語る
第二章 アレクセイ・ミーシンは語る
第三章 都築章一郎はふたたび語る
第四章 ヴィクトル・ルイシキンは語る
第五章 都築奈加子は語る
第六章 タチアナ・タラソワは語る
終章 都築章一郎は三たび語る
都築は羽生に言った。
「挑戦をしなさい」
「未知の世界に向かいなさい」
そして、こう言い続けた。
「芸術家になりなさい」
都築章一郎(つづき・しょういちろう)
1938年愛知県出身。
日本大学卒業。卒業後は指導者となり、1964年日本フィギュアスケーティングインストラクター協会に参画。
佐野稔をはじめ多数の選手を育成した。また、ソ連(当時)より有力コーチを招聘し、日本フィギュア界の発展に貢献。1987年より14年間、日本フィギュアスケーティングインストラクター協会理事長を務め、指導者資格認定制度を確立。1991年より4年間、日本オリンピック委員会(JOC)主任強化コーチ。
五輪二連覇の羽生結弦を小学2年より高校時代にかけて指導。
【著者プロフィール】
宇都宮 直子(うつのみや・なおこ)
ノンフィクション作家、エッセイスト。
医療、人物、教育、スポーツ、ペットと人間の関わりなど、幅広いジャンルで活動。
フィギュアスケートの取材・執筆は二〇年以上におよび、スポーツ誌、文芸誌などでルポルタージュ、エッセイを発表している。
『人間らしい死を迎えるために』『ペットと日本人』『別れの何が悲しいのですかと、三國連太郎は言った』『羽生結弦が生まれるまで日本男子フィギュアスケート挑戦の歴史』『スケートは人生だ!』ほか多数。
出版社による紹介文です(楽天ブックスの書誌情報より)。
書誌情報
- 書名
- 羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程 (集英社新書)
- 著者
- 宇都宮直子
- レーベル
- 集英社新書
- 出版社
- 集英社
- 発売日
- 2020年1月17日
- ISBN
- 9784087211054