新書嫁レビュー
上司の言うことを聞くのは、怖いからではなかった
2026-04-22
会社で従うのは「権力」があるからだと思っていた
上司の指示に従う、規則を守る、先輩の言うことを聞く——そういった行動の理由を「権力があるから」「従わないと損するから」で説明してきました。罰則があるから守る、解雇されたくないから従う——それが「いうことをきく」という現象の本体だと思っていたのです。でもそれだけでは説明できないことがある。親の言葉はもう強制力がないのに、なぜかまだ頭の中で響く。学校の先生の評価を、30年後も気にしている自分がいる。「権力」では説明できない服従の形が、確かに存在していたのです。
なだいなだ著『権威と権力』はこちらから読めます。
「権威」は相手に感じさせるものであり、自分では持てない
なだいなだがこの本で示すのは、「権威」と「権力」は全く異なる原理だという分析です。権力は「従わないと罰する」という強制の原理。しかし権威は違います。権威とは「自発的にいうことをきかせる」ものであり、権威を感じるのは服従する側の内側です。専門家に聞いてしまうのは、自分が「知らないことへの不安」を抱えているからです。親に従うのは、幼少期から「親のいうことをきけば安心できる」という学習が刻み込まれているからです。
著者は精神科医の視点から、権威への服従が「不安の解消」という動機から来ていることを論じます。自分でものを考えて決断することは不安を伴う。誰か「偉い人」がそれを肩代わりしてくれれば安心できる——その心理的メカニズムを自覚しないとき、人は気づかないうちに「自律」ではなく「依存」の状態に置かれます。本書ではさらに、社会の中で権威と権力がどのように絡み合い、どう機能するかについて対話形式で展開されます。ぜひ本書で確かめてみてください。
「なぜ従うのか」を問えるようになった
この本を読んでから、「誰かの言葉に従う」ときに一瞬立ち止まれるようになりました。これは権力への服従か(従わないと罰があるから)、権威への服従か(この人が言うなら正しいという思い込みから)——その区別を意識するだけで、見えてくるものが変わります。
「権威がある」と感じる専門家の意見を鵜呑みにしていたとき、実は「自分で考えることの不安」を相手に委ねていただけかもしれない。それに気づくことは、権威を否定することではなく、「なぜその人の言葉を信頼するのか」を自分で判断できるようになることです。権威から完全に自由な人間はいないし、それが必ずしも悪いことでもない。ただ、「気づかずに従う」のと「理由を持って従う」のは全く違うと、この本は教えてくれます。
精神科医・作家がひらいた、権力論の平易な入口
なだいなだ(1929〜2013年)は東京生まれ。慶應義塾大学医学部卒業後、精神科医として活動しながら作家・評論家として多くの著作を発表した人物です。精神科医の立場から人間の心理と社会の仕組みを結びつける独特の視点で知られ、アルコール依存症の臨床・研究でも大きな業績を残しました。本書は1974年の刊行で、対話形式で平易に書かれた「権威論」の古典として、今日も広く読まれています。
この本を読まなければ、「上司の言うことを聞く」ことの理由を一生「権力があるから」だけで片付けていたはずです。「なぜ人はいうことをきくのか」を問えるようになると、自分がいつ自律していて、いつ依存しているかが見えてきます。
なだいなだ著『権威と権力』、購入はこちらから。
書誌情報
- 書名
- 権威と権力――いうことをきかせる原理・きく原理 (岩波新書 青版 C-36)
- 著者
- なだ いなだ
- レーベル
- 岩波新書 青版 C-
- 出版社
- 岩波書店
- 発売日
- 1974年3月28日
- ISBN
- 4004120365