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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

なぜ焼酎だけ、できたてでうまいのか——一杯の裏の科学

焼酎は、ただ安くて強いだけのお酒だと思っていた

焼酎について、私はほとんど何も知らずに飲んでいました。蒸留酒で度数が高く、安くて気取らない——その程度の理解で、グラスを傾けていたのです。ワインやウイスキーには語るべき物語があるけれど、焼酎はせいぜい産地が違うくらいだろう、と。けれど、いざ友人にうんちくを聞かれると一言も返せず、自分が日常的に飲んでいるものをまるで知らないという、妙な居心地の悪さがありました。鮫島吉廣・髙峯和則著『焼酎の科学』を読んで、その一杯の奥に広がる世界に、すっかり引き込まれてしまいました。

「ただの安酒」の裏に隠れていた、七つの謎

本書が手がかりにするのは、焼酎をめぐる素朴な「謎」です。たとえば、なぜ焼酎はほとんどどんな原料からでも造れるのか。芋、麦、米、そば、黒糖——同じ蒸留酒でも、これほど原料の幅が広い酒は珍しいといいます。そしてもう一つ、蒸留酒でありながら、なぜ焼酎は熟成させなくてもできたてからおいしいのか。本書はこうした問いを、発酵と蒸留の科学からていねいに解き明かしていきます。背景にあるのは、清酒づくりに向かない温暖な九州の風土の中で、人々が積み重ねてきた知恵と技でした。気温が高いと腐敗しやすく、酒造りには不利とされた土地で、どうやって安定しておいしい酒を生み出すか。その問いへの答えが、麹の選び方や仕込みの工夫として、長い時間をかけて磨き上げられてきたのです。本書ではさらに、麹のはたらきや、焼酎に秘められた成分の話まで、踏み込んだ解説が続きます。とりわけ印象的なのは、米が手に入りにくい風土が、かえって多様な原料を使う工夫を生んだという逆説です。恵まれなかった環境が制約ではなく、独自の酒文化を育てる土壌になっていたのです。同じ蒸留酒であるウイスキーとの違いを通して、焼酎ならではの個性がどこから来るのかも語られ、読みながら何度も「そういうことだったのか」と膝を打たされます。何気なく飲んでいた一杯がどう生まれているのか、その全体像はぜひ本書で確かめてみてください。

いつもの一杯が、味わい深くなった

この本を読んでから、晩酌の時間がすっかり豊かになりました。以前はただ「効くなあ」と流し込んでいた焼酎を、今はラベルの原料表記を眺め、これはどんな麹で、どう蒸留されたのだろうと想像しながら口に運んでいます。同じ一杯でも、その背後に九州の蒸し暑い風土と、何世代もの試行錯誤が積み重なっていると知ると、味わいの解像度がまるで違います。鹿児島出身のある読者が「飲むだけで知らないことが多すぎた」と書いていましたが、まさにその通りでした。居酒屋で焼酎を選ぶときも、銘柄の名前だけでなく、原料や造りを思い浮かべて選ぶようになりました。知識が一つ増えるごとに、いつもの晩酌がささやかな探究の時間に変わっていったのです。

知らずに飲み続けるには、もったいなさすぎた

この本に出会わなければ、私は焼酎を「安くて強い酒」と決めつけたまま、その奥行きに一生気づかずに飲み続けていたはずです。著者の鮫島吉廣氏は鹿児島大学の名誉教授、髙峯和則氏は同大学の焼酎・発酵学教育研究センターの教授で、ともに焼酎研究の専門家です。研究の最前線に立つ二人だからこそ、ただの蘊蓄ではなく、確かな科学に裏打ちされた話を、飲み手の好奇心に寄り添う形で語ることができるのだと思います。いつもの一杯をもっと味わいたい方に、おすすめしたい一冊です。

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この本を手に入れる

焼酎の科学 発酵、蒸留に秘められた日本人の知恵と技 (ブルーバックス) 鮫島吉廣, 髙峯和則 / 講談社

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