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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

あの戦争への道を引いたのは、首相でも大臣でもない一人の軍人だった

戦争への道は、政治家たちが決めたものだと思っていた

日本が破滅的な戦争へ進んでいった道筋を、私はずっと、首相や大臣といった表舞台の責任者たちが決めたものだと思っていました。歴史の教科書に名前が残る人々が、その流れを作ったのだと。けれど、その理解のまま過ごしていると、なぜあれほど多くの人が止められないまま戦争へ突き進んだのか、という疑問がいつまでも腑に落ちませんでした。誰か一人の決断ではなく、もっと深いところで何かが動いていたのではないか。その違和感の正体が分からないまま、私は過ごしていたのです。川田稔さんが編んだ『永田鉄山軍事戦略論集』を読んで、その霧が晴れました。

「将来の陸軍大臣」と目された男が描いた、総力戦の設計図

本書が浮かび上がらせるのは、永田鉄山という一人の軍人の姿です。彼は陸軍士官学校・陸軍大学を出たエリートで、東條英機らとともに国家総動員体制を推進した統制派のリーダーでした。「将来の陸軍大臣」と目された逸材でありながら、皇道派との抗争のなかで一人の中佐に斬殺される。二・二六事件の約半年前のことでした。本書に収められた論考を読むと、第一次世界大戦という人類初の総力戦から永田が何を学び取り、次の戦争に備えてどんな国家の設計図を描いていたかが見えてきます。読者の一人は「論集でまとめて読むと、この人物が太平洋戦争までの日本の骨格を作り上げていたことがわかった」と書いています。永田の関心は、戦時にどれだけの兵力を動員できるか、そのための平時の備え、機械化兵器と工業生産力、そして国家総動員に向けた青年教育にまで及んでいました。彼は次の世界大戦を避けがたいものと見ていて、中国問題を資源確保の問題と捉えていた。その発想が満州事変や日中戦争へとつながっていく様子は、読んでいて背筋が寒くなります。最高責任者ではなく、巨大組織のなかの一官僚にすぎなかった人物が、なぜそれほどの影を歴史に落とせたのか。その答えは、本書でさらに踏み込んで描かれます。ぜひ本書で確かめてみてください。

「歴史は宿命ではなく人間の仕業だ」と実感する

この本を読んでから、歴史の見え方が変わりました。以前は、過去の出来事を、大きな時代の流れに押し流された宿命のようなものとして眺めていました。けれど今は、その流れの一つひとつに、生身の人間の思考と判断が刻まれていたのだと感じます。ニュースで官僚や政治家の視野の狭さが問題になるとき、組織のなかで誰も止められないまま物事が進んでいく様子を見るとき、これは決して過去だけの話ではないと身にしみて分かるようになりました。歴史は宿命ではなく人間の仕業である。その実感を持てたことで、今の社会を見る目までもが鋭くなった気がします。

知らないままでいたら、肝心の部分を見落としていた

もしこの本に出会わなければ、私はあの戦争を、表舞台の名前だけで理解した気になっていたはずです。編者の川田稔さんは、政治外交史・政治思想史を専門とする研究者で、原敬や浜口雄幸といった主役たちの思想を鮮明にしてきた人物です。その川田さんが、これまでまとまった形では入手できなかった永田の論考を一書に編んだ。専門家の本格的な解説に導かれて、私たちは歴史の影にいた人物の思考にまで近づくことができます。表の歴史だけ知って分かった気になるのは、やはり危うい。そう感じた方にこそ、この一冊は深く効いてきます。

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永田鉄山軍事戦略論集 (講談社選書メチエ) 川田稔 / 講談社選書メチエ

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