「化学は暗記科目」——その思い込みが、全部をつまらなくしていた
高校の化学の授業を思い返すと、ひたすら元素記号を覚え、反応式を丸暗記し、試験が終われば綺麗さっぱり忘れる、という繰り返しだった。なぜ水素と酸素が結びつくと水になるのか、なぜ塩は水に溶けるのか——そういった「理由」は一度も教わった記憶がない。化学は「覚えなければならない無数のルール集」だと信じて疑わなかった。その思い込みのせいで、化学が絡む話題が出るたびに思考を閉じていた。食品の成分表示を見ても読み飛ばし、薬の説明書を見ても意味がわからない。日常のあちこちに化学が潜んでいるのに、それが理解できないもどかしさをずっと抱えていた。
ところが、齋藤勝裕著『カラー図解でわかる高校化学超入門』を読んで、その認識が崩れた。化学は暗記科目ではなく、「なぜそうなるのか」の連鎖で理解できる学問だったのだ。
原子の「気持ち」がわかると、化学反応が面白くなる
本書で最初に驚いたのは、原子の結合を「満員電車」と「空席」で説明するくだりだ。原子はそれぞれ電子の席に「定員」があり、席が満杯でないと不安定になる。だから原子同士は足りない席を補い合うために結びつく——これが化学結合の本質だという。学校でイオン結合と共有結合を丸暗記させられたとき、その理由を一度でも説明されていれば、随分と違っていただろうと思った。
カラー図解が豊富で、分子の立体構造や電子の動きが視覚的に理解できる点も大きい。たとえば水分子がなぜ折れ線型の形をしているのか、その形がどう水の性質に影響するのかが、ページを開くだけで直感的につかめる。名古屋工業大学名誉教授で200冊以上の著書を持つ齋藤勝裕氏が、一般読者に向けて徹底的に噛み砕いた内容だ。本書にはさらに有機化合物の章や、身近な化学現象の解説も充実している。ぜひ本書で確かめてみてください。
スーパーの棚が、別の場所に見えてきた
この本を読む前と読んだ後で、最も変わったのはスーパーでの時間だ。以前は食品の成分表示に並ぶカタカナの化合物名を見て、「よくわからない添加物」としか認識していなかった。
本書を読んだ後、たとえば「クエン酸」が酸性を示す有機酸であることや、「塩化マグネシウム」が豆腐の凝固剤として働く仕組みが、おぼろげながらでも見えるようになった。完全に理解しているわけではないが、成分表示を読むときに思考が止まらなくなった。薬局で栄養補助食品の説明書きを読む感覚も変わった。「何が体の中で何をしているのか」という問いが、以前より具体的に立てられるようになった。化学を知ることは、世界を一枚薄皮めくって見ることに似ている。スーパーの棚が、科学の実験室に見えてくる瞬間が生まれた。
「わからなかった」のは才能ではなく、入口の問題だった
この本を読まなければ、化学への扉は一生閉まったままだったと思う。苦手だという感覚は実は「正しく教わっていなかった」だけだったと、今は確信している。
著者の齋藤勝裕氏は東北大学大学院で理学博士を取得し、名古屋工業大学で長年教鞭を執ってきた化学者だ。専門は有機化学・物理化学・光化学と多岐にわたり、200冊を超える著書の多くが「わかりやすい化学」を追求したものだ。本書のカラー図解と平易な文章は、まさにその集大成といえる。化学が苦手だという感覚を持ったまま大人になった人ほど、読む価値のある一冊だ。