← ブックフィード 新書嫁 PR

新書嫁レビュー ・ 約 3 分

政治学は「思想」ではなく「科学」を目指していた——日本の学問史の意外な裏側

政治学とは政治家の語る理想や思想を論じる学問だと思っていた

政治学と聞くと、わたしは長らく、立派な思想家が国家のあるべき姿を語り、理念を論じる学問だと思い込んでいました。丸山眞男のような知識人が時代に向けて発した言葉、それが政治学の中身なのだと。けれども、その理解のままだと、現代の政治学者が選挙データを統計処理したり、実験で人の投票行動を測定したりしている事実が、どうにも腑に落ちませんでした。同じ「政治学」という看板なのに、頭の中の像と現実がずれていて、ずっと小さな違和感を抱えていたのです。その認識を根底から崩してくれたのが、この一冊でした。

戦後の政治学者たちが本気で目指したのは「科学としての政治学」だった

本書がたどるのは、戦後の日本で政治学者たちが「科学としての政治学」をどう築こうとしたかという軌跡です。丸山眞男の名はあまりにも有名ですが、本書はそこで止まりません。升味準之輔、京極純一といった研究者が、思想を語るのではなく、現実の政治を測り、検証しようと格闘した過程が描かれます。彼らはマルクス主義の成果を一部取り込みながら、同時に行動論という実証的な手法を少しずつ受け入れていきました。さらに佐藤誠三郎や佐々木毅らが集った「レヴァイアサン・グループ」が、その行動論を本格的に取り入れていく場面は、学問が世代を超えて姿を変えていく様子そのものです。そして本書はジェンダー研究や実験政治学という、近年生まれた潮流にまで筆を伸ばします。先進国へと変貌していく日本社会のなかで、政治学そのものもまた、問いの立て方と方法を更新し続けてきたのです。学問が一枚岩の「思想」ではなく、つねに方法をめぐって揺れ動いてきたことが、ここで初めて見えてきます。本書では、それぞれの研究者がどんな問題意識から手法を選び取ったのかが、さらに踏み込んで論じられています。

学者の名前が、生きた選択の連なりに見えてきた

この本を読む前のわたしにとって、政治学者の名前は教科書に並ぶ固有名詞の羅列でしかありませんでした。丸山眞男以外はほとんど知らない、という状態だったのです。けれど読み終えたいま、ニュースで政治学者のコメントを聞くと、その人が「どの系譜のどんな方法を受け継いでいるのか」を想像するようになりました。選挙の翌朝、テレビで出口調査の数字が解説されるのを見ても、これは行動論の延長にある営みなのだと感じられる。研究者がデータを集めて投票行動を測ろうとする姿が、戦後の学者たちの格闘とひとつながりに見えてくるのです。学問の名前が、もはや暗記すべき記号ではなく、生きた人間の選択の連なりとして立ち上がってきました。世界の解像度が、確実に一段上がったのを実感しています。

知らないままなら、政治学を半分しか見ていなかった

この本を読まなければ、わたしは政治学を「思想を語る学問」という半分の姿でしか見ないまま生きていたはずです。著者の酒井大輔氏は名古屋大学法学部・同大学院で学び、日本政治学史を専門とする研究者です。専門家だからこそ描ける、学問が自らを問い直してきた長い道のりがここにあります。自分も政治学について同じ思い込みを抱えていたかもしれない、と感じた方にこそ届いてほしい一冊です。

※本記事にはアフィリエイトリンク(PR)が含まれます。

この本を手に入れる

日本政治学史 丸山眞男からジェンダー論、実験政治学まで (中公新書) 酒井大輔 / 中公新書

次の一冊 ── 同じ主題「政治」

大正デモクラシー: シリーズ 日本近現代史 4 (岩波新書 新赤版 1045 シリーズ日本近現代史 4) 成田 龍一 / 岩波新書 新赤版 1045 シリーズ日本近現代史 書評を読む →

← ブックフィードに戻る

日本政治学史 丸山眞男からジェンダー論、実験政治学まで (中公新書) Amazon 楽天