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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

箱根駅伝の本当の主役は、選手ではなかった

箱根駅伝はスター選手の競争だと思っていた

毎年1月2日と3日、テレビの前で箱根駅伝を見ながら、注目しているのは個々の選手でした。柏原竜二の山登り、スター選手のタイム、各区間の激戦——名場面はすべて特定の走者の物語として記憶されていました。つまり箱根駅伝とは「速い選手が速さを競う舞台」であり、その主役は個人だという前提で長年見てきたのです。でも、そのフレームのままだと、なぜこれほど多くの人が毎年泣きながら画面を見るのか、その感情の源泉がどこにあるのかが、どうもわかりきらない感覚がありました。生島淳著『箱根駅伝に魅せられて』を読んで、自分が本質を見逃していたことに気づきました。

選手は4年で消える。それでもチームは100年続く

本書を読んで最も強く感じたのは、箱根駅伝の本当の主役は選手個人ではなく、大学という「チーム」であり、そのチームを育てる「監督」だという視点です。選手はどんな才能があっても4年間しかいられない。しかし大学のタスキは100年以上にわたって繋がれ続けてきた。各大学の監督たちは、4年ごとに入れ替わる選手を、毎回ゼロから育てていく。その積み重ねの中に「強い大学」が生まれます。

本書では原晋(青山学院大学監督)、大八木弘明(駒澤大学監督)、澤木啓祐(順天堂大学監督)などの名指導者が取り上げられ、彼らがどんな哲学で選手を育ててきたかが詳述されています。特に印象的なのは、箱根で強さを誇りながらもオリンピック・世界選手権代表をほとんど輩出できていない大学もあるという現実と、その背景にある約20kmという駅伝の距離とマラソン選手育成の矛盾という問いです。本書にはさらに、大会100年の歴史における名勝負の数々や、シューズ産業と駅伝の関係についても書かれています。ぜひ本書で確かめてみてください。

「走り」ではなく「育て方」の物語として見ると、全てが変わった

この本を読む前、箱根駅伝の中継でカメラが監督車や沿道のコーチに向くとき、それは「選手を脇から支えるサポートキャスト」として見ていました。でも今は違います。監督の4年間の戦略が、あの10人のタスキリレーとして結実している——そう理解した上で画面を見ると、監督の表情が別の意味を持ちます。泣いている監督の涙には、選手への愛情だけでなく、4年間積み上げてきた采配の全てが凝縮されている。「育てることの重さ」を知った後では、同じ中継が全く別のものとして見えてきます。

本書を読んで改めて気づかされたのは、箱根駅伝が「育成の実験場」でもあるという側面です。監督によって選手のトレーニング哲学が大きく異なり、箱根での強さとオリンピック・世界選手権での活躍が必ずしも一致しない現実が、その多様性を物語っています。また、本書の後半では近年の選手とナイキの厚底シューズの関係も取り上げられており、道具の革新が競技に与える影響という視点も加わります。45年以上見続けてきた著者だからこそ気づく変化と継続性の両方が、この本には丁寧に記録されています。毎年正月に画面を見ているだけでは決して届かない、箱根駅伝の本当の深さがここにあります。

45年以上見続けた人だからこそ書ける、骨太の箱根論

スポーツライターの生島淳は、宮城県気仙沼市出身で、45年以上にわたって箱根駅伝を見続け、各大学の監督・選手を長年取材してきた人物です。ラグビーや野球など他の競技でも活躍するスポーツライターとして知られながら、箱根駅伝については誰よりも深く、誰よりも長く向き合ってきた。その視点から書かれた本書は、「箱根を感動するもの」としてではなく、「箱根をわかるもの」として届けてくれます。

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