頭の出来は生まれつきで決まっている、と思っていました
勉強ができる子は最初から脳のつくりが違う。集中力がある人は、もともとそういう性質を持って生まれてきた。そんなふうに私はずっと考えていました。だから集中が続かない自分や、覚えたことをすぐ忘れてしまう感覚を、半ば仕方のないものとして受け入れていたのです。けれど、その諦めはどこかで小さな違和感を残し続けていました。本当に努力では変えられないのだろうかと。その認識を根底から揺さぶってきたのが、この一冊でした。
脳を変える鍵は、机の上ではなく足の裏にあった
本書が伝える中心的なメッセージは、驚くほどシンプルです。脳を鍛えたいなら、運動すること。著者によれば、体を動かすことで気分が上向き、集中力が増し、記憶力や発想力までもが底上げされるといいます。それだけでなく、成績が上がり、ゲームの腕まで上がり、やがてスマホに頼らなくなるという効果まで挙げられています。これは精神論ではなく、脳科学の研究を土台にした話として語られています。スウェーデンでは10万人以上の生徒たちがこの本を読み、教育現場では「ハンセン先生」のメソッドがすでに常識として根づいているとされています。机に向かう前に、まず体を動かす。その順番が、これまでの常識とは逆だったのです。本書はもともと、世界的ベストセラー『スマホ脳』を読んだ大人たちの「結局うちの子はどうすればいいのか」という問いに答えるかたちで書かれた、いわば特別授業でもあります。運動がなぜ脳に効くのか、どのくらいの量で十分なのかについても、より踏み込んだ形で具体的に語られています。読み進めるほどに、自分の中の「頭の良さ」の定義が静かに書き換わっていく感覚があります。
「動けば変わる」と知ってから、日常の選択が変わった
知る前の私は、頭がぼんやりする日を、ただ運が悪い日として受け流していました。けれど読んだ後は、調子が出ないときにまず散歩に出るようになりました。エレベーターを階段に変える、昼休みに少し早歩きをする、考えが煮詰まったら一度立ち上がって体を動かす。そんな小さな選択の一つひとつが、午後の集中力につながっているかもしれないと思えるようになったのです。すると不思議なことに、頭が冴える時間を自分で手繰り寄せている感覚が芽生えました。仕事や勉強がはかどらない時間を、能力のせいだと嘆く代わりに、まず体を動かしてみるという一手が増えた。生まれつきの能力に縛られていた世界が、自分の手で少しずつ整えられる世界に変わった。その実感が、毎日の過ごし方に静かな彩りを添えてくれています。
知らないままだったら、ずっと諦め続けていた
この本を読まなければ、私は脳の働きを変えられないものと信じたまま生きていたはずです。著者のアンデシュ・ハンセンは、スウェーデンの精神科医で、ノーベル賞選定で知られるカロリンスカ医科大学に学んだ人物です。日本での著作は累計120万部を突破しているといわれ、脳と生活の関係を一般読者に届ける語り口には定評があります。精神科医として人の脳と心に向き合ってきた専門知に裏打ちされているからこそ、その言葉には説得力があります。しかも本書は子ども向けの特別授業として書かれているぶん、難しい用語を使わず、誰が読んでも腑に落ちるやさしさがあります。自分の頭の出来を、生まれつきのせいにして諦めている人にこそ、ここで一度立ち止まってほしいと思います。
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