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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

「どうせ私なんて」——その口ぐせは、脳にかけた呪文だった

言葉は、ただの音だと思っていた

誰かに言われたひと言や、自分でつぶやく口ぐせを、私はただの音の連なりだと軽く見ていました。「どうせ自分には無理だ」と口にしても、それは気分の問題で、現実とは関係ないと思い込んでいたのです。けれど、なぜか同じような失敗を繰り返し、うまくいきかけても自分でブレーキを踏んでしまう。その理由が自分でもわからず、どこかしっくりこない感覚をずっと抱えていました。自分の意志でやめたいと思っているのに、なぜか同じ後ろ向きな言葉が口をついて出てしまう。その繰り返しに、自分のことなのに自分で操縦できていないような心もとなさがあったのです。この本を読んで、その違和感の正体が見えました。言葉は気分どころか、脳の働きそのものに作用する力を持っていたのです。

「呪」ではなく「咒」と書く意味

本書がタイトルに選んだのは、呪いの「呪」ではなく「咒」という字です。「咒」は害意のある呪いだけでなく、ポジティブな願いや想念までも含む、言葉の隠された力そのものを指すといいます。同じ言葉でも、人を縛ることもあれば、人を支えることもある。脳科学者である著者は、SNSにあふれる悪意の言葉、脳にかけられる暗示、知らぬ間に刷り込まれていく「負けグセ」、そして快楽による中毒やルッキズムまでを、脳の仕組みから解き明かしていきます。たとえば私たちが他人の容姿にどうしても目を奪われ、美醜に囚われてしまうのも、本人の意志の弱さではなく脳の働きによるものだと説かれます。本書の狙いは、自分にかけられた咒の正体を知らせ、そこから解放することにあるといいます。第三章のルッキズムや、第四章で扱われる「社会がかける咒」、終章の「咒がかなうとはどういうことか」では、より踏み込んだ話が展開されます。その続きは、ぜひ本書で確かめてみてください。

口ぐせを言い換えるようになった

この本を読む前の私は、落ち込むたびに「やっぱりダメだ」と無意識につぶやき、その言葉が自分をさらに沈めていることに気づいてもいませんでした。それを単なる気分の波だと片づけ、なぜ抜け出せないのかと不思議に思うばかりだったのです。鏡の前で自分の容姿を責める癖も、ただの自己嫌悪だと思い込んでいました。けれど読み終えたいま、ネガティブな言葉が口から出かかったとき、ふと「これは脳に咒をかけているのではないか」と立ち止まれるようになりました。同僚の何気ないひと言に過剰に傷ついたときも、それが言葉の力の作用だと理解できると、深追いせず受け流せる場面が増えました。SNSで飛び交う心ない言葉も、距離を置いて眺められるようになったのです。言葉を選ぶことが、自分の内側を守る具体的な手立てになりました。

知らないままなら、かけられ続けていた

この本に出会わなければ、私はこれからも自分や他人の言葉に無防備なまま、知らぬ間に咒をかけられ続けていたはずです。著者の中野信子は、東京大学大学院医学系研究科で脳神経医学を専攻し、医学博士の学位を持つ脳科学者で、フランス国立研究所ニューロスピンでの研究歴もあります。脳の仕組みを科学的に究めた専門家だからこそ、日常にあふれる言葉を冷静な観察の目で解きほぐし、その正体を私たちに手渡してくれるのです。自分も知らないうちに何かの咒にかかっているかもしれない。そう感じた方は、ぜひ本書でその正体を確かめてみてください。

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咒(まじない)の脳科学 (講談社+α新書 823-4C) 中野 信子 / 講談社+α新書 823-4C

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