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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

百年前の英国軍人が、現代のサイバー戦まで見通していたという驚き

戦術の本は、戦場の専門家だけのものだと思っていた

戦術や軍事戦略の本と聞くと、自分とは縁のない、ごく一部の専門家のための難解な世界だと思っていました。図解もなく文字だけが延々と続くような印象があって、手に取ろうとも思わなかったのです。けれど、その思い込みのまま過ごしていると、ビジネスやスポーツで「機動力」「先手を取る」といった言葉に触れるたびに、その言葉の本当の重みが分からないまま使っている、というもやもやがありました。勝つための柔軟な思考とは、いったい何なのか。その核心に手が届かない感覚が、ずっと残っていたのです。木元寛明さんの『機動の理論』を読んで、その霧が晴れました。

機動戦の理論を生んだのは、母国に評価されなかった一人の英国軍人だった

本書の中心にいるのは、J・F・C・フラーという英国陸軍の将校です。彼が第一次世界大戦に現れた新兵器、戦車に着目し、それをどう動かせば戦場を制せるかという「機動の理論」を打ち立てました。驚くのは、母国イギリスではほとんど注目されなかったこの理論が、ドイツ軍やソ連軍に取り入れられ、後にイスラエル軍や米軍へと受け継がれ、現代に至るまで生き続けているという事実です。百年も前に構想された一人の思考が、形を変えて今なお影響を与えている。本書は豊富な図版とイラストを使って、その理論の本質を初心者にも読み解けるように描き出します。読者レビューでも「百年前にこれを構想していたフラーに脱帽した」「科学的に戦術を研究する必要性を学べた」という声が寄せられています。興味深いのは、フラーの理論が日本陸軍にはほとんど顧みられなかった一方で、ドイツのグデーリアンやソ連のトハチェフスキーといった指揮官に多大な影響を与えたという点です。一人の埋もれた思想家の発想が、国境を越え、敵味方の枠を越えて受け継がれていく。その壮大な系譜をたどるだけでも、歴史を見る目が一段深くなります。フラーという人物の人物像や、その理論が現代のサイバー戦にまでどう応用されているかは、本書でさらに踏み込んで語られます。ぜひ本書で確かめてみてください。

「動き」で勝負が決まる、という視点が日常に効いてくる

この本を読んでから、ものごとの捉え方が少し変わりました。以前は、勝負ごとを「力の強さ」や「数の多さ」で測っていました。けれど今は、どこに、いつ、どう動くかという「機動」の発想で物事を眺めるようになりました。仕事で優先順位を組み替えるとき、限られた時間をどこに集中させるか考えるとき、正面からぶつかるのではなく相手の隙を突いて先手を取るという発想が、自然と頭に浮かぶようになったのです。戦車の理論が、まさか自分の日常の判断にまで影を落とすとは思ってもいませんでした。正面から力でぶつかるより、相手が予期しないところへ素早く動くほうが、はるかに少ない労力で局面を変えられる。その発想は、限られた資源で成果を出さなければならない現代の働き方そのものに通じています。

知らないままでいるのは、もったいなかった

もしこの本に出会わなければ、私は「機動」という言葉を、ただの便利な比喩のまま使い続けていたはずです。著者の木元寛明さんは、陸上自衛隊で第七十一戦車連隊長を務め、陸将補まで昇った機甲科のプロフェッショナルです。実際に戦車部隊を率いた人物だからこそ書ける、理論と現場が地続きになった視点がこの本には宿っています。勝つための思考の根っこを知らないまま生きるのは、やはりもったいない。そう感じた方にこそ、この一冊は静かに刺さります。

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機動の理論 勝ち目をとことん追求する柔軟な思考 (サイエンス・アイ新書) 木元 寛明 / サイエンス・アイ新書

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