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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

最も民主的な国から、独裁は生まれた

独裁は特殊な国で起きると思っていた

ヒトラーという独裁者について、私はどこか遠い話として捉えていました。あれは特別に未熟で、暴力的で、自由のない国でだけ起こりえた悲劇なのだ、と。きちんとした選挙があり、議会があり、自由が保障された国であれば、あんな人物が頂点に立つことはない。そう思い込むことで、どこか安心していたのかもしれません。でもその理解のままでは、なぜ多くの人びとがあの体制を支持してしまったのか、いつまでもうまく説明がつかず、もやもやした気持ちが残っていました。その認識を静かに崩してくれたのが、舛添要一さんの『ヒトラーの正体』です。本書は歴史を批判的に理解するための入門書であり、独裁を称賛するものでは決してありません。

当時、最も民主的とされた国家から

この本がまず突きつけてくるのは、重い事実です。ヒトラーが台頭したワイマール共和国は、当時もっとも民主的といわれた憲法を持つ国家だったということ。自由な選挙も、議会も、進んだ人権規定もありました。それでも、人びとは合法的な手続きを通じてこの体制を選んでしまった。本書は少年期から独裁への道、経済・外交政策、第二次世界大戦、反ユダヤ主義の問題、そして大衆がなぜ従ったのかまでを、章を追って時系列でたどり、その過程を冷静に解き明かしていきます。特に印象に残るのは、宣伝が果たした役割への著者の指摘です。著者はインタビューでも「プロパガンダがなくては成功しません」と語っており、緻密に設計された宣伝なしには、この支持の広がりは成り立たなかったとされます。経済的な不安、敗戦後の屈辱、社会の分断。そうした土壌に、わかりやすく強い言葉が差し込まれたとき、何が起きたのか。なぜ自由な国で、人びとは自ら不自由を選んでしまったのか。その入り組んだ経緯については、ぜひ本書で確かめてみてください。

ニュースの見方が、慎重になった

この本を読んでから、現代のニュースの読み方が変わりました。以前は、過激な言葉で人びとを煽る政治の動きを見ても、「極端な意見だ、いずれ消えるだろう」と他人事のように眺めていました。今は、不安や不満が募った社会で、わかりやすく強い言葉がどれほど力を持つのかを思い出すようになったのです。たとえば、誰かを「敵」と名指しして溜飲を下げさせる物言いを見かけると、以前なら聞き流していたのが、今はその言葉が広がっていく仕組みのほうに目が向く。歴史で起きたことは、特別な国の特別な事件ではなく、条件がそろえばどこでも起こりうる。そう考えると、選挙の報道一つを見るときの注意深さがまるで違ってきました。遠い昔話だったものが、自分たちの問題として近づいてきた感覚があります。

知らなければ、油断したままだった

この本に出会わなければ、私は独裁を「特殊な国で起きた、遠い昔の出来事」と片づけたまま、油断して生きていたと思います。著者の舛添要一さんは東京大学法学部政治学科を卒業し、パリ・ジュネーブ・ミュンヘンでヨーロッパ外交史を研究してきた人物です。現地で一次資料に触れ、歴史を専門的に学んだ書き手だからこそ、独裁が生まれる過程を批判的に、かつ冷静にたどることができています。この本は独裁者を英雄として描くものではなく、なぜそれが防げなかったのかを問う一冊です。歴史を正しく恐れ、その仕組みを知っておくことは、同じ過ちを繰り返さないための、いちばん地味で確かな備えになります。自分は無関係だと思っているうちが、いちばん危ういのかもしれません。

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ヒトラーの正体 (小学館新書 ま 12-1) 舛添 要一 / 小学館新書 ま 12-

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