数字は理系で経理の人のもの、だと割り切っていた
会社の決算書や財務の話になると、私はいつも視線をそらしてきました。あれは経理部や会計士のような数字に強い専門家が扱う領域で、自分には縁のないものだ、と。損益計算書や貸借対照表という言葉を見ただけで、難しい専門用語の壁が立ちはだかる気がして、わかったふりをしてやり過ごす。けれど、その態度のまま仕事を続けていると、どこかでずっと落ち着かないものが残ります。会議で数字が飛び交うとき、自分だけが本質を掴めていないのではないか、という小さな不安。その曖昧さを抱えたまま判断を下すのは、地図を持たずに知らない街を歩くのに似ています。金児昭さんの『「できる社長」だけが知っている数字の読み方』は、その不安の正体を解きほぐしてくれる一冊でした。
本当にできる人ほど、数字をシンプルに見ていた
この本が覆してくれたのは、「数字に強い人は複雑な計算を操れる人だ」という思い込みでした。本書が描く「できる社長」は、むしろ逆の人たちです。彼らは決算書のすべてを暗記しているわけではなく、どこを見れば会社の体温がわかるかという勘所だけを、現場の感覚と結びつけて掴んでいます。著者は「できる社長は本質主義者だ」と表現し、力の大部分を利益を上げることに注ぐべきだと説きます。読者レビューにも印象的な一節がありました。普通の偉い人は専門用語や外来語を連発するけれど、本当に偉い人は誰にでもわかる言葉で読み手の気持ちに立ってくれる、と。まさにこの本がそうで、数字を専門家の難解な道具から、経営を見るための素朴な物差しへと引き戻してくれます。本書では、現場主義を貫く社長たちの具体的なエピソードや、決算書のどこをどう押さえれば会社の実態が見えるのかが、さらに踏み込んで語られていきます。経理や財務という部門を、報告を受けるだけの相手ではなく、経営判断のために能動的に使う道具として捉え直す発想も紹介されており、数字を扱う立場の人だけでなく、数字を受け取る立場の人にとっても発見の多い内容になっています。
数字を恐れなくなると、仕事の会話そのものが変わった
読む前の私は、数字の話になると黙り込み、誰かの結論を待つ側の人間でした。けれど読んだ後は、会議で売上や利益の数字が出たとき、「この数字は何を意味しているのか」と自分なりに問いを立てられるようになりました。すべてを理解する必要はない、肝心な勘所だけ掴めばいい——そう思えるだけで、肩の力が抜けます。以前は専門用語が出るたびに身構えていたのが、今は「要するに何が言いたい数字なのか」と本質に手を伸ばせる。数字が敵ではなく、会社という生き物の状態を教えてくれる味方に変わった瞬間でした。日々の仕事の解像度が、確かに一段上がったのを感じます。
知らないままなら、ずっと数字に怯えて生きていた
この本を読まなければ、私はこれからも数字の話になるたびに視線をそらし、誰かの判断に身を委ね続けていたはずです。著者の金児昭さんは、信越化学工業で経理・財務一筋に38年を歩み、常務取締役として経理・財務・法務・購買を担った人物です。日本を代表する経理・財務の実務家が、5人の社長に仕えた経験から「本当に数字が読める人は何を見ているか」を語るからこそ、その言葉には現場の重みがあります。数字に苦手意識を持つすべての人にとって、最初の地図になる一冊です。