会社の数字といえば「利益」がすべてだと思っていた
会社の良し悪しは、結局のところ利益が出ているかどうかで決まる。私はずっとそう思っていました。売上から費用を引いた利益が黒字なら安泰、赤字なら危ない。決算書のニュースを見るときも、その一点だけを追っていたのです。けれど、そう信じていたわりに、なぜ好調そうに見える企業が突然行き詰まるのか、その仕組みがどうにも腑に落ちないままでした。この本を読んで、自分が見ていた数字は半分でしかなかったと気づきました。利益とは別に、お金そのものの流れがあったのです。
「利益」と「お金」はまったくの別物だった
本書が冒頭で解きほぐすのは、会計とファイナンスはどう違うのか、という問いです。会計が扱うのは「利益」であり、ファイナンスが扱うのは「キャッシュ」、つまり実際の現金だと著者は整理します。利益は、商品やサービスを売り買いした時点で帳簿に記録されますが、現金が手元に入ったかどうかとは別の話です。だからこそ、利益が出ているのに資金繰りに詰まって倒れる「黒字倒産」という現象が起きるのだと本書は説明します。売上は立っているのに、代金の回収が間に合わず、手元の現金が尽きてしまう。帳簿の上では健全に見えた会社が、現金という別の物差しでは危うかった、というわけです。読者の声にも、会社・株主・債権者という複数の視点から会社の見え方を整理できて分かりやすかった、というものがありました。本書はさらに、お金の時間価値、会社の値段の決め方、投資の判断基準へと話を進めます。今日の一万円と明日の一万円は同じ価値ではない、という章では、より踏み込んだ考え方が展開されています。
数字のニュースが、立体的に見えるようになった
この本を読む前、私は経済ニュースで「増収増益」と聞けば、それだけで優良企業だと素直に受け取っていました。いまは、利益の数字を見ても、では現金はちゃんと回っているのだろうか、と一拍おいて考えるようになりました。勤め先の話を聞くときも、売上が伸びたという話の裏で、入金のタイミングや在庫の積み上がりはどうなっているのかが気になるようになったのです。家計の感覚にも近いものを感じました。月の収支が黒字でも、引き落としと入金のタイミングがずれれば一時的にお金は足りなくなる。会社も同じなのだと腑に落ちたのです。以前なら見出しの数字だけで安心したり不安になったりしていたものが、利益とお金の流れという二つの軸で眺められるようになりました。平面だった数字が、少し立体的に立ち上がって見える。その変化は、仕事で予算の話に触れるときにも、地に足のついた手応えを与えてくれました。
早く知っていれば、と悔しくなる一冊
利益だけを見ていればいいと思い込んだままでいたら、私はこれからも数字の半分しか読めずにいたはずです。著者の石野雄一さんは、旧三菱銀行を経てインディアナ大学ケリースクールで経営学修士号を取得し、日産自動車の財務部でキャッシュマネジメントを担ってきた実務家です。理論だけでなく現場でお金を動かしてきた人だからこそ、難しい計算を避けつつ本質をつかませてくれます。数字が苦手で財務から目をそらしてきた方こそ、ぜひ本書で最初の一歩を確かめてみてください。