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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

センスは才能だと諦めていた人へ。美しさには「設計図」がある

美しいものは「感覚」で生まれていると信じていた

素敵なデザインのチラシや、思わず見とれてしまう色の組み合わせ。ああいうものは、生まれつきセンスのある一部の人だけが作れるものだと、私はずっと思っていました。自分には縁のない世界だと。だからおしゃれなレイアウトを前にすると、心のどこかでいつも小さく気後れしていたのです。なぜ自分はこれを「いいな」と感じるのか、その理由を言葉にできないまま、ただ漠然と眺めるだけでした。その正体のわからなさが、長いあいだ心に引っかかっていました。ところが三井秀樹さんの『美の構成学 バウハウスからフラクタルまで』を読んで、その思い込みは根底から崩れました。

美しさは1919年に「学問」になっていた

本書が教えてくれるのは、美しさには分析可能な秩序がある、という事実です。その出発点が、1919年にドイツのワイマールで創設された造形学校バウハウスでした。ここで「構成」という考え方が体系化され、感覚的に語られてきた美が、はじめて理論として整理されていったのです。黄金比、シンメトリーによる安定、視線を導く動き、配色がもたらす統一感。私たちが「なんとなく美しい」と感じていたものの裏側には、こうした共通の法則が静かに働いていました。たとえば街で見かける広告も、色や形の配置に確かな根拠があって人の目を引いている。本書はバウハウスがナチスによって閉鎖され、その理念がアメリカへ渡っていく歴史をたどりながら、写真やタイポグラフィといった広い分野に構成の考え方が浸透していった流れを描きます。そのうえで造形の数理から、コンピュータ・グラフィックスやフラクタル図形にまで理念がどう広がっていくのか、さらに踏み込んだ話が展開されます。読者レビューでも「センスは限られた人がもつものというのは大間違いだと知った」という声があり、その章を読むと、これまで自分の外側にあったデザインの世界が、急に手の届くものに見えてくる感覚を味わえます。気になる方はぜひ本書で確かめてみてください。

街の風景が「読み解ける」ものに変わった

この本を読んでから、私の日常はずいぶん豊かになりました。以前は通り過ぎるだけだった店の看板や、電車の中吊り広告。それを見ると、つい「この余白の取り方が効いているのか」「この色の対比が安定感を出しているのか」と、頭の中で構造を分解するようになったのです。美術館で絵を前にしたときも、ただ「きれい」で終わらず、なぜ心地よく感じるのかを自分の言葉で説明できる。世界が、ぼんやりした印象の集まりから、理由のある秩序として立ち現れてきました。自分の服を選ぶときでさえ、色の相性を意識できるようになり、これまで感覚に頼って迷っていた選択に、ひとつの足場ができた気がしています。

知らなければ、ずっと気後れしたままだった

美しさを「才能のある人だけのもの」と諦めていたら、私はこの先もずっと、自分の感覚を信じられないまま過ごしていたはずです。本書の著者である三井秀樹さんは、筑波大学と玉川大学の名誉教授で、構成学とメディアアートを専門としてきた研究者です。長年この分野を見つめてきた人だからこそ、美を感覚の霧の中から取り出し、誰もが手にできる知として差し出してくれます。自分にはセンスがないと感じているなら、その思い込みごと一度ほどいてみる価値があります。

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美の構成学 バウハウスからフラクタルまで (中公新書) 三井秀樹 / 中公新書

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