情報を盗むのは、天才ハッカーの仕事だと思っていた
パスワードを破り、企業の情報を抜き取る——そう聞くと、暗い部屋でキーボードを叩く天才的なプログラマーの姿を思い浮かべていました。自分のような普通の人間には縁のない、高度で専門的な世界の出来事だと決めつけていたのです。だからセキュリティ対策といっても、難しいパスワードを設定すれば十分だと考えていました。それでいて、なんとなく自分の情報が漏れていないか不安で、ニュースで情報流出の話を聞くたびに胸がざわつくのに、何を警戒すればいいのかわからない。その正体のつかめない不安を、見て見ぬふりで放置していたのです。この本を読んで、その思い込みが覆りました。攻撃の入り口は、技術ではなく人間の心の隙にあったのです。
攻撃は「身近で泥臭いところ」から始まる
本書が最初の章で扱うのは、高度な暗号解読ではなく「ソーシャルエンジニアリング攻撃」です。これは、人をだまして情報を聞き出す、極めて人間くさい手口を指します。本書はハッキングが身近で泥臭いところから始まることを、攻撃者の視点から具体的に解説していきます。たとえば社内の人間や取引先を装った一本の電話、あるいは何気ない世間話のなかに、パスワードや内部情報を引き出す罠が仕掛けられている。最新の防御ソフトをいくら入れても、人の油断という入り口は塞げないのです。本書はそこからパスワード攻撃、相手を意図した先へ導く誘導攻撃、盗聴、ボットへと進み、スマートフォンやネットにつながる家電に至る次世代の攻撃にも触れていきます。読者からは「安いし厚くないけれど、大事なことは網羅している」という声も寄せられています。それぞれの手口がどう仕掛けられるのか、その中身は本書で順を追って確かめてみてください。
怪しいメールへの反応が変わった
この本を読む前の私は、セキュリティといえば機械が守ってくれるものだと思い込み、届いたメールや電話の相手をほとんど疑っていませんでした。見知らぬ番号からの着信にも普通に応じ、求められるまま情報を答えてしまうことが危険につながるとは想像もしていなかったのです。けれど読み終えたいま、銀行や配送業者からの確認を装ったメールが届くと「これは人の油断を突こうとしているのではないか」とまず立ち止まり、リンクを踏む前に送り主を確かめるようになりました。家族から急ぎの送金を頼む不審な連絡が来たときも、慌てず一度電話で本人に確かめる習慣がつきました。守るべきは機械の設定だけでなく、とっさに反応してしまう自分自身なのだと腑に落ちたのです。
知らないままなら、無防備なままだった
この本に出会わなければ、私はこれからも「自分のような普通の人間は狙われない」と油断したまま、無防備に過ごしていたはずです。著者の岡嶋裕史は、中央大学大学院総合政策研究科の博士後期課程を修了して博士号を取得し、情報セキュリティとネットワークを専門とする研究者です。最前線の知識を持つ専門家でありながら、技術にうとい人にもすっと届く平易な言葉で手口をほどいてくれるからこそ、ふだん身構えていない読み手の油断にまっすぐ届くのです。自分も知らないうちに狙われる側に立っているかもしれない。そう感じた方は、ぜひ本書でその手口を確かめてみてください。