ビジネスホテルなんて、どこも同じで「寝るだけ」だと思っていた
出張で泊まるビジネスホテルは、駅から近くて、値段が手頃で、清潔ならそれでいい。どこに泊まっても結局は寝るだけの箱だ——私はずっとそう割り切っていました。だからこそ、出張の夜はいつもどこか味気なく、ホテルに着いてもただ眠るためだけに横たわる、あの寂しさのようなものがつきまとっていたのです。ところがこの本を読んで、「泊まる」という行為そのものが旅の楽しみになりうるのだと、認識をひっくり返されました。
夜の九時半、無料でふるまわれる「夜鳴きそば」という仕掛け
本書が描くドーミーインの象徴が、夜に無料でふるまわれる「夜鳴きそば」です。あっさりした醤油ラーメンを、サウナと大浴場でじっくり整えた体に流し込む——たったそれだけのことが、なぜこれほど多くの人を虜にするのか。一杯のラーメンが「無料のおまけ」ではなく、その日の旅をしめくくる小さな儀式になっている。本書は、最上階の大浴場、サウナ、水風呂、そして地域ごとに変わる朝食バイキングといった一つひとつの仕掛けを取り上げながら、それらが「ただ寝る場所」を「一泊すると住みたくなる場所」へと変えていく構造を解きほぐしていきます。とりわけ朝食は、ビジネスホテルの枠を超えて評価が高く、各地のドーミーインがそれぞれ違う土地の名物を小皿に並べる「味めぐり小皿横丁」のこだわりが紹介されます。さらに本書は、そうしたサービスを支えるスタッフ一人ひとりの想いや、事業にかける姿勢にまで踏み込んでいきます。実際に読者からは「読んでドーミーインに行きたくなった」「春休みに金沢の野乃に泊まってデビューした」という声が相次いでいて、本という枠を超えて人を動かしている一冊です。新ブランド「野乃」では館内が畳敷きでチェックアウトまでずっと裸足で過ごせるという、また違う魅力にも触れられています。なぜ一泊で住みたくなるのか、その答えはぜひ本書で確かめてみてください。
出張の夜が「面倒な移動の余り」から「楽しみ」に変わった
この本を読む前の私にとって、出張先の夜は早く終わらせたい時間でした。コンビニ弁当を食べて、シャワーを浴びて、寝る。翌朝も無料の朝食を流し込むようにかきこんで、すぐチェックアウト。それだけでした。けれど読み終えたあとは、出張の予定が決まると真っ先に「この街に目当てのホテルはあるか」と地図を調べるようになりました。ホテルを起点に泊まる土地を選ぶという、これまでなかった発想が芽生えたのです。先日の出張では、夜に大浴場でゆっくり汗を流してから夜鳴きそばをすすり、翌朝はその土地の名物が並ぶ朝食をわざわざ時間をかけて味わいました。移動のついでに我慢して泊まる場所だったホテルが、その日いちばんの楽しみに変わる。同じ出張なのに、心待ちにする時間が一つ増えた感覚は、思いのほか日々を豊かにしてくれました。
「どこも同じ」と決めつけていた私は、多くを取りこぼしていた
この本を読まなければ、私はこれからもビジネスホテルを「寝るだけの箱」と決めつけ、出張の夜を味気なくやり過ごしていたはずです。本書はドーミーインを愛する編集部が、自らを「ドミニスタ」と称するほどの熱量で書き上げた一冊で、ファン目線だからこそ拾えた細部の魅力が詰まっています。次の出張がある人ほど、泊まる前に開いておきたい本です。