死について考えるのは「縁起が悪い」と思っていた
死ぬことについて考えるのは、不吉なことだという感覚がずっとありました。まだ健康なうちから終末期のことを想像するのは、まるで悪いことを引き寄せるような気がして、意識的に避けていました。終活やエンディングノートという言葉は知っていても、「自分はまだ早い」という思いが先に立ちました。人生の終わりのことをあらかじめ決めておくのは、どこかネガティブで、生きることに後ろ向きな行為だと感じていたのです。でもこの本を読んで、その認識が完全に崩れました。死に方を真剣に考えることは、生き方を真剣に考えることとまったく同義だったのです。
「QOD」という概念が、すべてを変えた
本書のキーワードは「QOD(Quality of Death=死の質)」です。著者の川嶋朗は、医療の現場で長年患者と向き合ってきた医師として、「どう生きるか」と「どう死ぬか」が切り離せないものだという事実を繰り返し目撃してきました。
QODとは、本人が理想とする生き方を全うし、残された家族に後悔を与えない逝き方をすることを指します。延命治療をどうするか決めずに放置することは、あなたに代わって誰かが決断するという状況を生む——それはつまり、あなた自身の最後が他者の判断に委ねられることを意味します。
具体的には、「人生の期限をあらかじめ自分で設定しておくこと」「延命治療についての事前指示書(リビング・ウィル)を書いておくこと」「最期を迎える場所を決めておくこと」が、誰でも今すぐ始められる実践として紹介されています。本書にはさらに、「人生会議」の開き方や、日常からできる人生の断捨離についても丁寧に解説されています。ぜひ本書で確かめてみてください。
「いつか」を「今」に変える感覚
この本を読む前、私の人生にはぼんやりとした「やりたいことリスト」がありましたが、それはいつも「いつか」という言葉と一緒に存在していました。定年になったら、子供が大きくなったら、時間ができたら——そういった条件付きの未来に、大切なことが押しやられていました。
読んだ後は違います。期限を意識することで、逆算が始まりました。今の自分に残された時間の中で何を優先するか、何を手放すか、誰と過ごすか——そういった問いが、急に切実さを帯びるようになったのです。通勤途中にふと「今日、誰かに感謝を伝えられたか」と考える瞬間が増えました。これは死への恐怖からではなく、時間の有限性を正面から受け入れたことで生まれた、穏やかな緊張感です。
本書には「人生会議」という概念も登場します。家族や信頼できる人と、終末期の希望や延命治療についてあらかじめ話し合っておくことで、いざというときに誰も後悔しなくて済む状態をつくる取り組みです。日本社会ではまだ死について家族と話すことをタブー視する傾向がありますが、著者はその文化的な壁を乗り越えることこそが、残された者への最大の贈り物になると説いています。終末期の医療現場で繰り返し目撃してきた「家族の混乱と後悔」の実例が、この言葉に確かな重みを与えています。
死をタブーとして遠ざけていた頃には、この感覚は得られませんでした。
医師だから書けた、生と死の本質
北海道大学医学部を卒業後、ハーバード医学部マサチューセッツ総合病院への留学を経て、東京女子医科大学で日本初の自然医療研究所クリニックを立ち上げた川嶋朗は、西洋医学と東洋医学を統合した「統合医療」の第一人者として知られています。臨床の最前線で数えきれないほどの「死の瞬間」に立ち会ってきた著者だからこそ、この本には生死の本質が宿っています。