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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

なぜ子どもは誰に教わらなくとも文法を「感じ取れる」のか

言葉は「育てるもの」だと思っていた

子どもが言葉を覚える様子を見て、「やはり親がきちんと話しかけることが大切だ」と思いがちです。繰り返し聞かせ、反復させ、少しずつ語彙を増やす——言語習得は徹底した後天的な学習の結果だ、と。そのため、英語をなかなか習得できない大人自身についても、「もっと練習すれば身につくはずだ」「子どものころにやっておけばよかった」という焦りが生まれるのです。

だが実際には、子どもはそれほどの指導を受けなくても驚くほど自然に言葉を使いこなすようになります。「なぜこんなに上手くいくのか」——この疑問が長年引っかかりながら、「そういうものだから」と曖昧に流し続けていました。言語習得のしくみを理解できないまま、自分の語学力の不足を「努力不足」に帰結させていたのです。

この本が、その長年の疑問に対する明快な答えを与えてくれました。

「普遍文法」は脳に刻まれていた

本書が明かすのは、チョムスキーが提唱した「生成文法理論」——すべての自然言語には共通の基盤があり、言語機能は生得的に人間の脳に備わっているという考え方です。著者の酒井邦嘉は、東京大学大学院総合文化研究科教授として言語脳科学を専門とし、ハーバード大学医学部での研究経験も持つ研究者として、この理論を脳機能イメージングの実験で検証しています。

最も印象的だったのは、子どもの言語習得についての記述です。子どもは大人が教えた文法ルールを暗記して言葉を使っているのではなく、脳内に備わった「文法の設計図」に従って言語を生み出しているというのです。だからこそ、親が明示的に教えていないはずの複雑な構文を、3〜4歳の子どもが自然に使えてしまう現象が起きます。

また本書では、第二言語の習得が成人には難しい本当の理由や、人工知能がいまだ言語を本当には「理解」できない根本的な理由についても言及されています。ぜひ本書で確かめてみてください。

言語を通じて「人間の設計図」が見えた

この本を読んで、言語というものへの見方が根本から変わりました。読む前は、言葉は「環境と学習の産物」であり、人間の知性は白紙に書き込まれていくものだという漠然とした確信がありました。

ところが本書を読んでからは、言語が単なる後天的な習得物ではなく、人間という生物に最初から備わった固有の能力だという認識が生まれました。電車の中で話す子どもの言葉を聞いても、「ちゃんと文法を使っている」と気づくようになり、日常の言語使用が「人間だけが持つ奇跡」に見えてくる瞬間があります。AI が言語で「つまずく」場面を目にするたびに、人間の言語能力の精巧さを改めて実感するようにもなりました。言語を通じて、人間という存在がいかに精巧に設計されているかを感じられるようになったのです。

チョムスキー理論を脳科学で検証した研究者の案内

東京大学大学院総合文化研究科教授として言語脳科学を専門とし、ハーバード大学医学部やMITで研究を積んできた酒井邦嘉だからこそ書ける、チョムスキー理論と脳科学の交差点を案内する一冊です。難解な理論を平易な言葉で解き明かしながら、人間の言語能力の神秘に迫っています。

この本を読まなければ、子どもの言語習得を「練習と環境の成果」として眺め続けていたと思います。

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チョムスキーと言語脳科学 (インターナショナル新書) 酒井 邦嘉 / インターナショナル新書

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