「日本経済はもう衰退する一方だ」と信じ込んでいた
人口は減り、借金は膨らみ、国際競争では負け続ける。テレビやネットで繰り返される「日本はもうダメだ」という言葉を、私はいつのまにか事実として受け取っていました。漠然とした不安だけが胸に残り、何を根拠にそう思っているのか、自分でも説明できない。その居心地の悪さの正体を、この本は正面から突いてきました。
「不安をあおる言説」を、著者は一つずつ検証していく
本書が標的にするのは、世の中に広く流通している「悲観論」そのものです。著者は、デフレの原因は人口減少にある、といった一見もっともらしい主張を取り上げ、それが本当にデータと整合するのかを問い直していきます。たとえば人口が減ればただちに経済が縮むという理屈に対して、本書ではそれを当然の前提とせず、別の説明の可能性を提示します。著者の立場はいわゆるリフレ派と呼ばれるもので、金融政策の役割を重く見る論者として知られています。その視点から、なぜこれほど多くの人が悲観論に流されてしまうのか、その構造そのものに切り込んでいくのです。印象的なのは、一つの主張を自分のなかで賛成側と反対側に分けて戦わせる「一人ディベート」という手法です。読者のレビューでも、この箇所と地政学の説明がとくに分かりやすかったという声がありました。誰かの意見に飛びつくのではなく、頭のなかで反論をぶつけてみる。その作法を実演してみせる点に、本書の独特の手応えがあります。本書ではさらに、平和憲法をめぐる議論や安全保障の話題にまで踏み込み、メディアの語り口がどのように不安を増幅させるのかが、より広い射程で論じられています。著者の立場には批判的なレビューも少なくなく、立場の異なる読者には異論もあるはずです。だからこそ、結論そのものより、反論の組み立て方を学べる一冊だと感じました。
「鵜呑みにする」癖が、自分のなかで止まった
この本を読む前、私はニュースの見出しを、ほとんど反射的に信じていました。「日本、世界ランキングで後退」と聞けば、ただ落ち込む。けれど読んだあとは、まず「それは何と比べた話なのか」「数字のどこを切り取っているのか」と立ち止まるようになりました。同じニュースを見ても、鵜呑みにするか、いったん留保するかで、心の落ち着き方がまるで違う。悲観も楽観も、結局は根拠を確かめてから決めればいい。たとえば「過去最悪」という言葉を見ても、何を基準にした最悪なのかを一拍おいて考えるようになった。情報に振り回されていた自分から、ひとつ距離を取れるようになった感覚がありました。
知らなければ、ずっと誰かの不安を借りて生きていた
この本に出会わなければ、私は他人が広めた不安を、自分の感情として抱え続けていたはずです。著者の上念司さんは経済評論家で、デフレ脱却をめぐる金融政策の議論を長く発信してきた論者です。米国イェール大学の濱田宏一教授に師事したと語られており、その立場には当然賛否があります。だからこそ、結論をそのまま受け取るのではなく、論の運び方を自分の頭で吟味する。賛成するにせよ反対するにせよ、その判断を自分で下せるようになることに意味がある。その訓練の素材として、本書は読みごたえがあります。漠然とした悲観をどこかで抱えている方こそ、本書でその根拠を確かめてみてください。