官僚はただ杓子定規なだけだと思っていた
わたしはずっと、役所の対応が頑固で融通がきかないのは、官僚という人たちがことなかれ主義で、前例ばかりを重んじるからだと思っていました。窓口で「規則ですので」と断られるたびに、なぜもっと柔軟になれないのかと、もどかしさを感じていたのです。
ところがその見方のままだと、ニュースで報じられる官僚をめぐる不祥事や忖度の問題が、どうにもつながって理解できませんでした。融通がきかないはずの役人が、なぜ特定の場面では権力者の意向を先回りして動くのか。その矛盾に、ずっとひっかかりを覚えていたのです。その違和感を解いてくれたのが、この対談集でした。
「融通のきかなさ」は、本来は公平性を守る砦だった
本書で古賀茂明さんが語るのは、役人が融通をきかせないことの中には、本来とても大切な原則があったという事実です。政治家やその有力支持者が個別の事情で介入してくるのを防ぎ、誰に対しても公平に、一貫した扱いをする。その公平性を保つために、あえて頑固であることが求められていたというのです。
ところが本書は、その砦が内閣人事局の設置以降、幹部の人事を一手に握られることで内側から崩されていった経緯を、当事者の視点で描き出します。出世を左右する権限が官邸に集まると、官僚は公平性を守るよりも権力者の顔色をうかがうようになる。異を唱える官僚は遠ざけられ、先回りして意向を汲む者が引き上げられる。こうして融通のきかなさという本来の原則が、いつのまにか忖度という別物にすり替わっていったのです。著者はこれを、制度の運用次第で生じた歪みだと指摘します。本書には、著者が経済産業省の中枢で経験した電力をめぐる生々しい攻防についても、より踏み込んで語られています。続きはぜひ本書で確かめてみてください。
窓口の「できません」が、別の意味を帯びて聞こえてきた
この本を読んでから、行政というものの見え方が変わりました。以前は、役所で要望が通らないと「お役所仕事め」とただ苛立っていました。けれど今は、その「できません」の背後に、特定の誰かを特別扱いしない公平の論理が働いているのかもしれない、と一拍おいて考えられるようになったのです。
ニュースの受け止め方も変わりました。官僚の不祥事が報じられたとき、以前なら「また役人か」で終わっていました。今では、それが個人の堕落なのか、それとも幹部人事を握られたことで生まれた組織の歪みなのかを、分けて考えるようになりました。選挙で誰に投票するかを考えるときも、政策の中身だけでなく、その政治家が官僚機構とどう向き合おうとしているのかという観点が加わりました。同じニュースから、以前より一段深い構造が見えてくる。その変化が、政治を見る目を確かにしてくれたのです。
役人を「悪者」で片づけて、損をするところだった
この本に出会わなければ、わたしは官僚をただ融通のきかない悪者として片づけ、行政の仕組みの奥行きを見落としたままだったはずです。著者の古賀茂明さんは、東京大学法学部を経て旧通商産業省に入り、国家公務員制度改革の現場を担った元官僚です。組織の内側を知り尽くした人物だからこそ、外からは見えない官僚の習性とその崩れ方を、説得力をもって語れたのだと、読者の感想にも多く記されています。
役所の対応に苛立った経験のある方は、その頑固さの本当の意味を、まだ知らないのかもしれません。