平安時代の装束は「昔のコスチューム」だと思っていた
十二単(じゅうにひとえ)や束帯(そくたい)といった平安時代の装束を、豪華で美しい時代衣装として漠然と捉えていました。時代劇やドラマで目にする華やかな衣装は確かに美しいけれど、それが「なぜその色なのか」「なぜその形なのか」「なぜ重ね着をするのか」といった問いを持ったことがなかったのです。
装束はそれを着る人の身分・役職・季節・儀式の種類を細かく示すコードであり、平安貴族が装束を通じて何を伝えようとしていたかを知らないと、王朝文学も宮廷絵画も表面しか見えないということを、この本で初めて知りました。
この本が、平安時代への見方を根本から変えてくれました。
装束は「言語」だった——色と形が語る身分と感情
本書は、宮内庁書陵部に勤め、皇室の装束・有職故実の専門家として長年研究してきた近藤好和が、平安時代の装束の体系と意味を解説した一冊です。平凡社新書の一冊として、専門的な知識をわかりやすく伝えています。
平安時代の装束は、現代のファッションとは全く異なる論理で作られています。男性の束帯(礼服)や直衣(のうし)、女性の十二単、それぞれの色の組み合わせ(重ね色目)には厳密なルールがあり、着る人の官位・職種・祭事の種類・季節が一目でわかる仕組みになっていました。
特に興味深いのは「重ね色目」と呼ばれる配色の体系です。表の布と裏の布の色の組み合わせ(かさね)によって「紅梅」「萌黄」「薄氷」といった名前がつけられ、季節と風雅の感覚が装束を通じて表現されました。これは単なる美意識ではなく、自然と人間の調和を衣服という形で具現化しようとする世界観です。本書にはさらに、源氏物語などの王朝文学に登場する装束の描写を読み解く視点についても解説されています。ぜひ本書で確かめてみてください。
王朝文学を読む眼が変わった
この本を読んでから、源氏物語や枕草子を読むときの見え方が変わりました。装束の色や重ね方の記述が、当時の読者にとっては登場人物の身分・感情・場の雰囲気を伝える豊かな情報だったのだということが、ようやく実感できたのです。
平安時代の美意識が「自然をどう身に帯びるか」という感覚から生まれていたことを知ると、王朝文学も宮廷絵画も、全く新しい読み方ができるようになります。文字の背後にある「視覚的なコード」が読めるようになると、古典文学の楽しさが倍になる気がします。
宮内庁書陵部の専門家が語る「装束の体系」
宮内庁書陵部で有職故実の研究に長年携わってきた近藤好和が、平安時代の装束の意味と体系を解説した一冊です。豊富な知識と愛情が詰まった文章は、装束という視点から日本の歴史文化の深みへ誘ってくれます。日本の美意識の原点が、衣服という日常の中にあったことを再発見させてくれる一冊です。着物や伝統文化に関心がある方にはもちろん、王朝文学を楽しみたい方にとっても必読の一冊と言えます。
この本を読まなければ、平安時代の装束を「昔のコスチューム」として眺め続け、そこに込められた言語としての意味を見逃していたと思います。装束を「読む」眼を持つことで、古典文学の世界が鮮やかに立体化します。文学と衣装という異なる切り口が組み合わさることで、日本の古典への入口がぐっと広がります。