「御用学者」は権力に従う科学者のレッテルだと思っていた
「御用学者」という言葉は、政府や権力側の意向に従って都合の良い見解を述べる科学者を批判するレッテルであって、批判される側には言い訳の余地がない——そんな認識がありました。科学は独立であるべきで、権力と結びつく科学者は信頼できないという見方が自然にあったのです。
でもこの本を読んで、「御用学者」と批判される立場にいた当事者の視点から、科学者が政策に関与するとはどういうことか、そしてその難しさの本質が見えてきました。科学と政治の間に立つことの複雑さが、批判する側と批判される側の双方から深く、真剣に考えさせてくれます。
この本が、科学者と政治の関係への見方を変えてくれました。
専門家が政策に関与するとき、何を守り、何を失うのか
本書は、東京工業大学の原子力研究者として長年にわたり原子力政策に関わってきた澤田哲生が、東日本大震災・福島第一原発事故後に「御用学者」と批判された経験を振り返りながら、科学者が政策決定に関与することの本質的な困難を論じた双葉新書の一冊です。
著者が経験したのは、専門的知見を正確に伝えようとすればするほど、一般市民に理解できる形での説明が難しくなり、わかりやすい説明をしようとすれば専門的な正確さが犠牲になるというジレンマです。「安全か危険か」という二項対立での答えを求める社会の要請と、「状況によって異なる」という科学的な現実の間の溝が、科学者を「御用学者」と「反権力の専門家」の二項対立の中に追い込みます。
著者は、科学者が政策に関与することを「拒否」することも一つの選択だが、それは専門家としての社会的責任の放棄でもあるという難しい立場から書いています。正確さと伝わりやすさ、科学的誠実さと政治的文脈——これらの間で折り合いをつけながら動くことが、科学者が政治に関与する現実です。不確実性のある科学的情報を政策判断に使うとき、「100%確実ではないが蓋然性は高い」という言い方は、一般市民には「不確かなことを言っている」と受け取られることがあります。このコミュニケーションの非対称性が、科学者と社会の間の摩擦を生む根源の一つです。本書にはさらに、原子力政策における専門家と一般市民の対話の課題についても詳しく語られています。ぜひ本書で確かめてみてください。
「批判する側」と「批判される側」の間にある複雑さへの目が開いた
この本を読んでから、「御用学者」という批判ラベルの背後に、科学と政治の間にある構造的な困難があることを理解するようになりました。
誰かを簡単にラベルで分類することへの警戒心が生まれました。批判する側も批判される側も、それぞれが解決困難な構造的問題の中で動いているのだという重要な視点が、この本から具体的かつはっきりと得られます。
原子力研究者が語る「科学と政治の間に立つこと」
東京工業大学の原子力研究者として長年にわたり原子力政策に関わってきた澤田哲生が、科学者が政策に関与することの本質的な困難を当事者として語った一冊です。科学・政治・社会の関係への深い問いが詰まっています。
この本を読まなければ、「御用学者」という言葉を単純な批判ラベルとして使い続けたまま、その背後にある科学と政治の間の構造的な困難を知らずにいたと思います。