← ブックフィード 新書嫁 PR

新書嫁レビュー ・ 約 3 分

237本の小噺を読んで、笑いの正体が「人柄」だったと知った

面白い人は、面白いことを言える才能の持ち主だと思っていた

テレビで芸人が場をどっと沸かせるたび、あれは特別な才能なのだと思っていました。気の利いた一言が瞬時に出てくる頭の回転、磨き抜かれた話術。自分には縁のない世界の技術だと、半ば諦めていたのです。だから飲み会で気まずい沈黙が訪れても、面白いことの一つも言えない自分を責めるばかりでした。笑いとは結局、生まれ持ったセンスの問題なのだろう、と。そんな思い込みが、高田文夫さんの『笑芸人 しょの世界 プロも使えるネタノート』を読んで、根っこからほどけていきました。並んでいるのは、技術論ではありませんでした。

237本の小噺に、傷ついている人が一人もいない

この本には、芸人やスターたちの笑撃のエピソードが、一本一ページに満たない小噺として二百三十七本も並んでいます。談志師匠や五代目円楽、歌丸師、そしてポン友であるビートたけしのプライベートな逸話まで、ページをめくるたびに小さく吹き出してしまう。電車でひと駅のあいだに数本は読めてしまう手軽さです。けれど読み進めるうちに、ある一点に気づきました。これだけ大勢の芸人をネタにして笑い倒しているのに、傷つけられている人が一人もいないのです。母親の葬式すらネタにされた松村邦洋でさえ、どこか面白く料理されて愛されている。「もう中学生」が鶴瓶と初めて会ったときの逸話や、北野武監督の子どもじみた落書きの話まで、どれも他愛もないのに、語り手の温度が一定して優しいのです。これほど笑われてもなお「高田先生」を慕う芸人が引きも切らない理由が、その一本一本ににじんでいました。どんな人脈から、こんな話が途切れず湧いてくるのか。本書にはさらに、ジョーク集としてそのまま使える小噺も数多く収められています。その源泉は、ぜひ本書で確かめてみてください。

笑いの上手さより、相手への愛を見るようになった

この本を読んでから、飲み会での自分の立ち位置が変わりました。以前は気の利いた一言をひねり出そうと身構え、うまく言えずに落ち込んでいました。けれど高田さんの小噺を真似て、その場にいない共通の知人の、憎めない失敗談を愛情を込めて話してみたのです。すると場が和み、笑いが起きました。気づいたのは、笑いを生んでいたのは話術の鋭さではなく、その人を見下していないという温度だったということです。同じ失敗談でも、誰かを貶めれば場は冷える。けれど愛があれば、同じ話が笑いに変わる。それからは、面白いことを言おうと身構えるのではなく、目の前の人を一人も傷つけずに場をほぐすにはどう話すか、と考えるようになりました。面白さは生まれ持った才能ではなく、人との関わり方そのものなのだと、腑に落ちたのです。

笑いの達人が、最後まで人を傷つけなかった理由

この本を読まなければ、私は笑いをいつまでも遠い才能の話だと思い込み、人との距離を縮める機会を逃し続けていたはずです。著者の高田文夫さんは、ビートたけしを世に送り出したことでも知られる放送作家で、日本の笑いの最前線を半世紀近く支えてきた人です。だからこそ集まる膨大な逸話を、誰も傷つけずに笑いへと変える手つきには、年季の入った優しさがあります。気の利いたことが言えないと悩んでいる人ほど、この一冊が肩の力を抜いてくれるはずです。

この本を手に入れる

笑芸人 しょの世界 プロも使えるネタノート (双葉新書) 高田 文夫 / 双葉新書

次の一冊 ── 同じ主題「芸術・文化」

オペラの名盤 (平凡社新書 438) 堀内 修 / 平凡社新書 書評を読む →

← ブックフィードに戻る

笑芸人 しょの世界 プロも使えるネタノート (双葉新書) Amazon 楽天