「ヒット商品とは、独創的でクオリティの高いモノを作れば自然と売れて広がるものだ」とずっと思っていた
ビジネスの基本姿勢として、「いいモノを作る」ことが何よりも大切で、それさえ徹底すれば顧客は自然と集まる——そういう前提を当たり前のものとして持っていました。「品質至上主義」「職人気質」「中身で勝負」——これらの言葉が、誠実なビジネスの規範として頭の中に刷り込まれていました。マーケティングや流行操作の話は、本物のモノづくりからすれば「邪道」だと感じることさえありました。
でも、明らかに質の高い商品が売れずに消えていき、それほどでもない商品が爆発的に売れる場面を目にするたび、「ではヒットを生んでいるのは何なのか」という問いに、答えを持てないままでいました。「運」「センス」「タイミング」——曖昧な言葉でしか言語化できないままでいました。
中山淳雄著『ヒットの法則が変わった——いいモノを作っても、なぜ売れない?』を読んで、その問いへの答えが見えてきました。
現代のヒットは『独創性』ではなく『模倣の戦略的設計』と『流行の意図的形成』から生まれる
著者が本書で示す核心は、現代のヒット商品が「独創的なモノづくりの結果」として偶然生まれるのではなく、「過去のヒットを戦略的に模倣する」「流行を意図的に形成する」という二つの方法論を組み合わせて、構造的に生み出されているという事実です。著者は映画・ゲーム・音楽・テレビ・出版という多様な業界の成功事例を横断的に分析し、業界を超えて共通するヒットの法則を抽出します。
特に印象的なのは、「模倣」と「流行形成」を「邪道」ではなく「ヒットを生む正当な技術」として位置づけ直す視点です。過去のヒット作品から要素を分解し、何が普遍的に効くかを構造化して、新作に組み込む——これは独創性の放棄ではなく、むしろ「何がヒットを生むかの構造を理解した上での創造」です。同時に、流行は自然発生するものではなく、メディア・SNS・コミュニティへの戦略的働きかけで意図的に形成できる。著者はDeNA、Recruit、Deloitteでのコンサルタント経験を踏まえて、業界の事例から実践的なフレームワークを抽出します。本書にはさらに、各業界のヒット作品の構造分析と、模倣と独創を両立させる方法論が詳しく描かれています。ぜひ本書でその全貌を確かめてみてください。
「品質至上主義」だけでは届かない場所への道筋が見えた
読む前と後で、ビジネス・マーケティングへの向き合い方が変わりました。以前は「いいモノを誠実に作ること」がビジネスの最終答えだと思っていました。でも今は、「いいモノを作る」と並行して「どう届けるか」「どう流行を形成するか」を戦略的に設計することが、現代では必須の技術として位置づけられるという認識を持つようになりました。
具体的には、SNSでバズる商品やコンテンツを見るとき、「単に運がよかった」ではなく「どんな流行形成の構造が組まれているか」を観察するようになりました。また、自分自身の仕事や創作物に対しても、「中身を磨くこと」と「届く形に整えること」を別の技術として両立させる視点が生まれます。「邪道」と感じていたマーケティング技術が、実は「ヒットを生むための科学」として誠実に組み立てられた領域だと理解できると、ビジネスの捉え方が一段成熟します。
東大卒・元コンサルタントが、業界横断のヒット分析を体系化した
中山淳雄(1980年宇都宮生まれ)は東京大学文学部西洋史学科卒業・同大学院社会学修士課程修了後、リクルートスタッフィング・DeNA・デロイト トーマツ コンサルティングを経て、エンタメ業界をビジネス論として研究するコンサルタント・研究者として活動してきた著者です。社会学の素養とコンサルティングの実務、エンタメ業界の実証分析が結びついた本書は、業界の表面ではなく構造を捉える射程を持っています。
この本を読まなければ、「いいモノを作れば売れる」という前提のままで、模倣の設計と流行の形成という現代のヒットの本質と向き合う機会を持てないままでいたでしょう。