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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

情報を集めるほど選べなくなる——「目利き」の正体は知識ではなかった

良いものを選ぶには、たくさん調べればいいと思っていた

何かを選ぶとき、まずは情報を集めるのが正解だと、ずっと信じていました。家電も、レストランも、服も、口コミを読み比べてランキングを確認し、できるだけ多くの材料をそろえてから決める。それが賢い選び方だと思っていたのです。ところがいくら調べても、なぜか最後まで迷いが消えません。決めたあとも「本当にこれでよかったのか」という小さなしこりが残る。情報が増えるほど、自分の判断に自信が持てなくなっていく感覚が、どこかにずっとありました。本書を読んで、その違和感の正体がはっきりわかりました。

「目利き」とは、判断材料を増やすことではなかった

本書が示す「目利き力」の核心は、知識量でも情報収集力でもありません。それは「気付く力」だと著者は言い切ります。同じ店に入り、同じ商品を前にしても、目利きの人は他の人が見過ごす小さな違和感や良さに気付く。その感度こそが本物を見抜く力の源泉だというのです。そして、その感度を支えるのが「自分のスタイルを持つこと」だと述べられています。つまり、外にある正解を探すのではなく、自分の内側に判断の軸を育てる。軸があるからこそ、膨大な情報に振り回されずに「これだ」と選べる。象徴的なのは、目利きになる第一歩を「自分を壊すこと」に置いている点です。これまで自分が正しいと思い込んできた基準を一度疑い、いったん手放すこと。そこから本物を見抜く感度が育ち始める、というのです。本書には、その軸を磨くための日々の習慣が具体的に語られていて、お気に入りの店や街との付き合い方の章では、著者がどのように日常から感度を鍛えてきたかがより踏み込んで描かれています。さらに後半では、磨いた目利き力を自分の選択にとどめず、社会をよくする方向へ生かしていくという視点まで展開されます。情報を集める前に、まず自分を耕す。その順序の逆転に、思わずはっとさせられました。

選ぶことが、急にうれしくなった

この視点を知ってから、買い物や店選びの体験がまるで変わりました。以前はスマートフォンでレビューを延々とスクロールし、星の数で一喜一憂していました。けれど今は、まず自分が何を心地よいと感じるかに耳を澄ませるようになりました。喫茶店に入っても、点数の高さではなく、椅子の座り心地や店主の所作に目がいく。服を選ぶときも、流行ではなく「自分が長く愛せるか」で手に取る。すると不思議なことに、選んだあとの満足感がまるで違うのです。迷っていた時間が、自分の好みを確かめる楽しい時間に変わりました。週末に出かける店を決めるのにも、以前は予約サイトの点数とにらめっこして三十分も迷っていたのが、今は「自分が落ち着ける空気かどうか」というたった一つの問いで、すっと決められるようになりました。選ぶという行為が、義務から喜びへと色を変えていったのです。

知らないままなら、ずっと他人の物差しで生きていた

この本を読まなければ、私はこれからも他人のランキングを頼りに、自分のものではない物差しでものを選び続けていたはずです。著者の藤巻幸大さんは、伊勢丹のカリスマバイヤーとして若手デザイナー発掘売り場「解放区」を立ち上げ、経営再建中だった福助の社長として老舗を一年足らずで立て直した人物です。ものの価値を見抜き、選び抜くことを仕事の中心に据えてきた人だからこそ語れる説得力が、一行一行に宿っています。自分の選択にいつも自信が持てないと感じている方には、判断の軸そのものを見つめ直すきっかけになるはずです。

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目利き力 (PHPビジネス新書) 藤巻 幸大 / PHPビジネス新書

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