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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

心理学は「心を読む技術」ではなかった——一冊が変えた私の誤解

心理学を「心を見抜く学問」だと思っていた

心理学と聞くと、相手の本心を見抜いたり、性格を当てたりする技術のようなものを長らく思い描いていました。書店の棚に並ぶ「人を操る」「見抜く」といった言葉も、その印象を強めていたように思います。けれど、その理解のまま心理学の本を開くたびに、どこか期待とずれた手応えしか残らず、自分の中で像を結ばないもどかしさがありました。その違和感の正体を、モーリス・ルシュランの『心理学の歴史』が静かにほどいてくれました。心理学とは心を読む術ではなく、人間を理解するために幾人もの研究者が試行錯誤を重ねてきた、長い探究の歴史そのものだったのです。

「心理学」と一括りにできない、枝分かれの物語

本書が描くのは、ひとつの心理学ではなく、いくつもの心理学が枝分かれしてきた過程です。実験室で反応時間や感覚を測ろうとした実験心理学、人ではなく動物の行動から心の仕組みを探ろうとした動物心理学、人と人の違いそのものに注目した差異心理学、心の不調から逆に正常な心を照らし出そうとした病態心理学と臨床法、そして子どもの発達を追う児童心理学や、集団の中の人間を見る社会心理学。本書はこれらが互いに反発したり影響し合ったりしながら分化していく様子を、学者たちの逸話や具体的な事件を交えて簡潔にたどっていきます。たとえば、心を測れるものとして実験室に持ち込もうとした人々がいた一方で、目に見えない心ではなく観察できる行動にこそ手がかりを求めた人々がいて、両者は同じ「心理学」の名を掲げながら、まったく違う方角を向いていました。心理学が「ひとつの答え」ではなく「問い方の歴史」だったと知ると、これまで断片的に聞きかじっていた用語が、ひとつの地図の上に置かれていくような感覚がありました。誰かが立てた問いに別の誰かが反発し、その反発がまた新しい領域を生む。そうした連なりとして眺めると、心理学という言葉の輪郭が急にくっきりしてきます。本書ではさらに、こうした諸領域が応用面でどう展開し、どんな新しい方向へ向かおうとしているのかにも踏み込んで描かれています。その続きは、ぜひ本書で確かめてみてください。

「わからない」が「面白い」に変わった日常の手触り

この見取り図を手にしてから、日常での心理学との付き合い方が変わりました。以前はテレビや雑誌で心理テストや行動分析を見るたびに、本当だろうかと半信半疑のまま受け流していました。今は「これは差異心理学に近い発想だ」「これは行動から心を測ろうとした流れの末裔だ」と、その主張がどの系譜から来たのかを想像できるようになりました。ひとつの説に飛びつくのではなく、それがどんな問いから生まれたのかを考える余裕が生まれたのです。人の心という、つかみどころのないものに向き合ってきた人々の試行錯誤を知ると、安易な断定への警戒心と、わからなさそのものを楽しむ気持ちが同時に育っていきました。

知らないままなら、ずっと回り道をしていた

もしこの本に出会わなければ、私は心理学を「人を見抜く便利な道具」と誤解したまま、的外れな期待を抱き続けていたはずです。本書はフランスの「文庫クセジュ」叢書の一冊として、心理学という広大な領域を簡明にまとめた概説書です。学説をただ並べるのではなく、その背後にいた研究者たちの挿話とともに発展と分化を描き出す筆致には、対象を長く見つめてきた書き手ならではの落ち着きがあります。心理学に少しでも触れたことがあり、けれどどこか像を結べずにいる方ほど、この一冊が見取り図になってくれるはずです。

この本を手に入れる

心理学の歴史 (文庫クセジュ 710) モーリス ルシュラン, 豊田 三郎 / 文庫クセジュ

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