← ブックフィード 新書嫁 PR

新書嫁レビュー ・ 約 3 分

コンプレックスは「克服するもの」だと思っていた

コンプレックスは弱さの象徴で、乗り越えるべきものだと思っていた

「コンプレックスがある」という言葉は、日本語では「劣等感がある」とほぼ同義で使われます。外見が気になる、家柄が気になる、学歴が気になる——そういった「自分の欠点への囚われ」をなくすことが成長だと思っていました。コンプレックスを持っていることは恥ずかしいことで、それを克服することで人は自由になれる——そう信じていたのです。しかしそれが間違いだったのかもしれないと気づかせたのが、ユング心理学の第一人者が書いたこの一冊でした。

コンプレックスは「もう一人の自分」だとユングは考えていた

河合隼雄がこの本で語るのは、「コンプレックス」という言葉を最初に学術的に使ったユングの本来の意味です。ユングにとってコンプレックスとは「劣等感」ではありませんでした。それは意識から切り離された感情的な塊——自我に統合されていない「もう一人の自分」です。

劣等感コンプレックスは、その一形態に過ぎません。本書では「劣等コンプレックス」と「優越コンプレックス」は表裏一体であることが示されます。過剰な自信の裏に深い劣等感が隠れていることも、また逆に「謙虚さ」の裏に巨大な優越感が潜んでいることもある。夢の中にコンプレックスが現れること、元型(アーキタイプ)との関連、コンプレックスを「解消する」のではなく「統合する」という治療の考え方——これらが丁寧に語られます。克服の目標ではなく、理解と統合の対象としてコンプレックスを見る視点は、ぜひ本書で確かめてみてください。

「欠点を消す」ではなく「自分を理解する」という向き合い方に変わった

この本を読んでから、コンプレックスへの向き合い方が変わりました。気にしている部分を「なくそう」とする努力が、なぜかいつも空回りしていた理由がわかりました。意識から追い出そうとすると、無意識の中で逆に大きくなる——これはユング心理学の基本的な洞察です。

「なかったことにしよう」とするより、「なぜそれが自分にとってそこまで大きく感じられるのか」を問う方向に変わりました。過剰に反応してしまう場面、理由もなく腹が立つとき、なぜか同じパターンで失敗するとき——そこにコンプレックスの働きがある。それを「弱さ」と断じるのではなく、「自分を知るための手がかり」として受け取れるようになったとき、気持ちが少し楽になった気がします。

日本のユング心理学の基礎を作った臨床心理学者

河合隼雄(1928〜2007年)は兵庫県生まれ。京都大学理学部数学科卒業後、スイスのユング研究所でユング派分析家の資格を取得した、日本人初のユング分析家です。京都大学教育学部教授として後進を育て、ユング心理学に基づく箱庭療法を日本に広め、文化庁長官も務めました。本書は1971年の刊行で、「コンプレックス」というおなじみの言葉の本来の意味を平易に解説した入門書として、50年にわたって読み継がれています。

この本を読まなければ、コンプレックスを一生「克服すべき弱さ」として戦い続けていたはずです。それが「もう一人の自分」との対話の機会であることを知ることで、自分との向き合い方がやさしくなります。

河合隼雄著『コンプレックス』、購入はこちらから。

この本を手に入れる

コンプレックス (岩波新書 青版 808) 河合 隼雄 / 岩波新書 青版

次の一冊 ── 同じ主題「心理」

改訂版 社会的ひきこもり (PHP新書) 斎藤 環 / PHP新書 書評を読む →

← ブックフィードに戻る

コンプレックス (岩波新書 青版 808) Amazon 楽天